暁の記憶

芋メガネ

プロローグ

3月16日 6時13分 N市 セントラルビル 屋上


朝焼けの空の下。

青年となった少年は、ヒナゲシの花束を持ってビルの屋上を訪れる。


「久しぶり。」


彼はその花束をそこに供えると、地面に腰を下ろした。


「ここは、あんたと初めて本気で刃を交えた場所だったよな。三年前もこんな風に朝焼けが綺麗だったのが今でも覚えてるよ。」


彼は語りかけるように空を見上げる。


「俺はアンタが憎かった。少なくとも、ここで刃を交えた時はそうだった。」


そして墓標と言わんばかりに彼は、真っ黒な刀をそこに突き立てた。


「俺の父親を殺し、仲間を殺し、そして、唯一の家族の先生さえも俺から奪っていった……。」


恨み言を連ねる青年。


「それでも、アンタが仇で俺は良かった。アンタが仇だったお陰で今の俺はあるんだからな。」


彼の口調はどこか清々しく、皮肉などもそこには無かった。

「じゃあ俺はもう行く。いつか、アンタに誇れる正義を見つけたらまたくるよ。」

彼はそう言い立ち上がる。

振り返ることもなく彼は再び前へ前へと歩みだしていった。



これは、『ゼロ』と呼ばれた少年が全てを失うまでの物語である。


『暁の記憶』

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