縁を切る者、結ぶ者

淡月雪乃

第1話 強引な神様

 日が沈み、夜に近くなった頃。逢魔おうまとき。人と人でない者が出逢いやすくなる時間。その時間に、山の中にある神社に行くと良いと、ある人から言われた。薄暗い中、山に入っていくと遠くから、光の列のようなものが見えた。あれは何だろう。


「おい! 何で人間がこんなところにいるんだ」


 急に声をかけられ、驚いていると腕を掴まれた。


「聞いてんのか? はぁ……こっちに来い」

「え? ちょっと! 」


 そのまま、強引に連れていかれる。誰なんだこの人は。そして、あの列は何だろう。


「何処に行くんですか。あの! 」


 どんどん山の奥に入っていく。比例するように、徐々に不安が増していく。このまま何処に連れていかれるんだろう。早く神社に行かなきゃいけないのに。空を見上げると、1番星が輝いているのが見えた。


「何処に連れて行く気ですか。……っ離して! 」


 掴まれた腕を振りほどこうとしたが、強く掴まれていて離してくれない。


「うるせぇ。黙ってついて来い」

「なら、せめて何処に行くか教えてください」


 返事はない。更に山奥に入っていく。本当に何なんだこいつは。逃げるすべもなく、黙ってついて行くと、見えてきたのは大きな鳥居だった。鳥居をくぐり、境内に入った時、ようやく腕を離してくれた。


「此処は、神社……? 」

「見て分かんねぇのか? 此処は蛍光けいこう神社だ。割と有名な縁切り神社だが」


 縁切り神社…私が行こうとしていた神社だ。こんなに遠かったんだ。


「あの、貴方は誰なんですか? さっきの光の列は何なんですか? 」


 多分、此処に連れてこられたのは、あの光の列のせいだろう。


「名前を聞くときは、自分から名乗るのが礼儀だろうが」

「人を無理やり連れてきた人に、そんなこと言われたくないです」

「チッ……言っておくが、俺は人間じゃねぇ。この神社の神様だ」

「え……? 」


 神様? この口が悪くて、おまけに態度も悪いやつが? でも本当なら、私の悪縁を切ってくれるかもしれない。


「ったく、助けてやって損したな」

「え、あの、さっきの光の列って何ですか? 助けてやったって? 」


 賽銭箱の上に、どっかりと座った彼が答える。


「あれは百鬼夜行だ。大量の妖が並んでる。そんな所に人間がいてみろ。夜食にされるぞ」


 つまり、食べられるかもしれなかった所から、連れ出してくれたってことなんだ。助けてくれたんだ。


「そうだったんですか。あ、ありがとうございます」


 一応、お礼を言っておく。助けてくれたのは事実だ。それにしても、今は何時だろう。すっかり暗くなってきた。スマホは持ってきたけど……。


「もう暗くなったな。おい、お前、こっちに来い」

「え? 」

「来いつってんだよ」


 また腕を引っ張られる。本当、強引だな。この……神様は。

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