第28話 会議2(口下手な新人)

 このネクロマンサー(この様な言い方、すまぬ)は私の質問に目を見開き……少し微笑むと話始めた。


「王は付与魔法の技術革新についてお詳しいのですね……驚きました、仰る通りです、あれだけの距離を隙間なく侵入を感知しようと考えた場合、おそらく十万単位での付与魔法済みの希少金属がいる筈です、今から学院の全魔法使いを参加させたとしても、数年掛かるでしょう」と言い机の上の紅茶を一飲した。

「なんじゃ、それでは無理ではないか!」机の一番下座で腕を組んでいた小柄な、だが筋肉が詰まった中年の男性が大きな声を発した。

「ゴードン……彼はまだ話の途中だ……」私は盗賊ギルドの長に両手を挙げて諫めた。

「しかし、王よ……」ゴードンはまだ何やら言いたそうだった、そして相変わらず腕は組んだままだった……王を前にして尊大とも取れる態度だったが、しぶしぶ彼は口をつぐんだ。

「……すみません、喉が乾いて、緊張です、許してください」彼は私とゴードンにペコペコ頭を下げると、又話を続けた。

「……今までの技術では確かに、その様な数量に付与魔法の施すとなれば数年掛かります」とまた前提条件を再度話す、ゴードンがイライラしているのが、組んだ二の腕を掴む拳にえらく力が入っているので判る。


 彼が深呼吸……して少し大きな声で話始めた……


「解決する為に、希少金属を紐状に加工する技術を開発しました……これで解決です!v( ̄ー ̄)v」


 頭蓋骨に皮が貼り付いただけの様な顔が……

 皮が引き吊られている???……否、多分これは笑顔なのだろう……

 彼の先程の話からそう考えるしかない……そうこれは彼の『笑顔』なのだ……


 私が彼の表情に困惑している最中……「ドカンッ!」と何かに当たった音……


「お主、意味が判らん?!何を言っておるのだ!」またまたゴードンだった……立っている……椅子は滑り、壁にぶち当たっている……怒気をはらんでいる、爆発寸前……そして周囲の出席者も頭の上に『???』が立っている……


 ……因みに私も、理解不能……話が飛躍しすぎている……


「……あぁ、すみませぬ、いつもの私の悪い癖です、説明不足です、自分では判っているのですが、すみません……すみません……」彼は出席者一人一人にペコペコ頭を下げだす。


「レイモンド君、構わぬ、謝罪は良いから、もう一度、順を追って、皆に判る様に説明してくれまいか?」私は優しく頼んだ、この男は押し付けても無理だ……更に緊張しボロが出るだけ、優しく彼の心の緊張を解かねばならん。


「……誠にすいません」彼は又謝る……

「もう、良いから早く結論を言え!」ゴードンの顔が赤い。

「ゴードン、そなた、静かにせい!」私はゴードンを叱った。

「ですが、王!こやつは意味不明な……」最後まで言う前に、「良いから黙っておれ!」と更に叱る。

「ぐぅぅぅ」声にも成らぬ、呻き声でゴードンが黙る。


「すまぬ、レイモンド君、冷静に話を組み立てて話してくれまいか」私は再度、彼に優しく頼む。


 ……ゴードンを含む出席者の多くは、何故私がここまで謙っているのかそれが不思議で仕方が無い様だった。

『王様が謙ってどうする……』と思っている事だろう。


 しかし、私はこのネクロマンサーに何か期待したのだ……天才という者を、私も人生の中で数人見てきたが、彼もその一人では無いかと思ったのだ……こういった他人への説明下手な人間に希に『天才』が居る……天才にとっては今の説明で理解出来るのだ……皆が頭に???を掲げた説明でも、天才は「あーなるほどそういう事ですが!」と膝を叩いて納得する事が出来る。


 飛躍した論理の、その間を一瞬で埋めて理解出来る……天才とはそういう者……だから、他者もその位、出来て当然と思う、自分が簡単に出来るのだから……


『何故、今の説明で理解出来ない』彼はその位に思っているかもしれない。


 骸骨青年は、ゴクリと唾を飲み話始めた。

「希少金属はその名の通り、金属で、また比較的髙硬度な為、形状加工に適していませんでした、ですから各道具に魔法を付与する際にスロットを刻みソコに埋め込む事で、道具に全体に魔法の影響を及ぼすのが一般的です」彼は又紅茶を口に含んだ。

「……確かにそれは私も勉強済みだ、おそらく希少金属は古代魔術文明で創られた製品なのだろう……だから、形が数種類に統一されている」私は皆にも判る様に補足する。

「……!!!……誰から学んだのですか……エレウス様ですか……そうか、おそらく……」レイモンド君が驚嘆する、そして納得する……そりゃそうだろう、魔法使いでも無いのに……ましてや王なのだから……知る必要など無いのだ……付与魔法の品が欲しければ宮廷魔法使いに依頼すれば良い、突貫工事で創ってくれるだろう。

 本来、王は魔法の構造理論など勉強する必要など微塵も無い……

「……その通りです、希少金属はその他の鉄や銅等の金属と違い、自然に埋蔵されているモノではありません、魔法付与を行う為に古代の先人達によって製作されたAncient productsです、材料では無いのです、あれは既に製品なのです」レイモンドは少し興奮して話す……私と会話が成立して楽しく成っているのが判る。

「希少金属のサイズは主に5種類有ります、大きい方が付与の効果が期待出来ます、しかし私はその何れも使用しません」骸骨の小鼻が拡がる。

「まぁ、使えない事は無いのですが、勿体無いので……」……おいおい、その結論に至らぬ話では……私は先が思いやられる。

 案の定、ゴードンは側頭部に血管を浮き上がらせて耐えていた……『もう暫く、我慢せよゴードン』私は思う。

「使用する希少金属は採掘時の破損品・不良品を使用します……高度な付与魔法は封入が出来ませんが、今回の様な簡単な、『感知したら発信する』程度のモノならば十分耐えうるかと……」私は思いやられる、外堀ばかりの話で、確信に迫らぬ……これは……ゴードンを視たくない……想像がつく。


 ゴードンから深いため息が聞こえる……


 レイモンドが続ける……

「今回、新しく柔軟性と屈曲性が向上する魔法を付与しています……」そう言いながら、ゴソゴソと小汚ない外套のポケットをまさぐる。


 引っこ抜いた手を机に置く……『ドロリ……』何やら気味の悪い液体とも粘土ともつかぬ物体が、レイモンドの手から落ちる……細く伸びる……細く……しなやかに……物体の最後をレイモンドが摘まんで、引き上げる……伸びる、伸びる、先程とは比較に成らぬ……

 麺類の如く……

 いや、糸の如く……

 いや、髪の毛の如く……

「これです…これが新しい希少金属……enchanted liquid metal です」小鼻から空気を吐き出しながらレイモンドが一際、自信たっぷりに言った。


『……素晴らしい……レイモンドはホンモノだ……』私の興味は、この粘土の様なモノではなく、この骸骨魔法使いに向かっていた。

 彼は、付与魔法が影響を与える対象を金属が埋め込まれた道具から、希少金属自体に転換した。

 つまり希少金属の組成を変える事に使ったのだ。

 これはホンモノの天才……常温で柔らかい金属など……この世界を変える事が出来る稀有な才能を持った人材だ……もうこのリキッド……なんちゃらの利用法方は既に判った……確かにこれなら、急場凌ぎの障壁にも対応できる。


 ……他の参加者はというと、相変わらず頭に???を付けたまま……何故レイモンドの説明がこれ以上無いのか困惑している……或いは怒りの感情が沸いて来ている……


 但し、ゴードンは先程の憤怒の表情から、何やら思索に耽っている……ヤツも気が付いたのかもしれん。


「レイモンド君、素晴らしい……これならば、その引き伸ばされた糸の様な希少金属に1回付与魔法を施せば、一体どれ程の距離を網羅出来るのかな?」私は説明役に徹する……皆、これで意味が判っただろう。


「これは試作品で短いモノです、現在最大の長さは、5km……」私の予想を越えてきた、これは使い物に成る所ではなく、素晴らしい発明だ。

「諸君、御理解頂けたか、この金属を、障壁作成時、同時に敷設すれば、敵が国境を越えてきた際、王都に居ながらにして、敵の進入が直ぐに判るという事だ」私は拍手する……


 私に引きずられて、他の参加者も拍手するが、半数は意味が判って居ない様子……


「レイモンド君、教えてくれたまえ、これはそのままで敷設出来るのか?耐光性や耐寒性、耐腐食性はどうなのだ?」私は思い付いた疑問を矢継ぎ早に尋ねる。

 彼の顔は嬉しく???成ったのか更に皮が引っ張られる……「勿論、考えてあります……」と言い、また外套からズルリと細い物体を引き出す。


 細い……柔軟性が有る……あの外套の中でぐるぐる巻きに成っていたのだ……中が中空だ……成る程……

「それに入れるのだね……」私は訊く。

 ゴードンは静かに頷いている……レイモンドを認めたのだ。

「はい、王、これはELMを野外で使用する事を想定して創った鎧管です、耐熱性、耐腐食、耐紫外線に優れ、内容物を保護します」

「EL……Mとはその液体金属の事か……」ゴードンが口を挟む。

「はっ、はい、そうです、長いので頭文字でそう呼ぶ事にしました」レイモンドは何故か直立不動……ゴードンが怖いのだ……私は少し面白くなる。

「そのELTとか言う魔法金属を使えば、敵がその物体の周囲を越えた際に、瞬時に連絡が来るという事らしいが、それは敵軍を認識出来るのか?」ゴードンの突っ込みが入る……

 成る程……確かに……ELMを越える対象は敵軍だけではない……民間人・山の民サンカ・動物・或いは落石なども含まれるかも知れない……その区別がELMが出来るのか?とゴードンは訊いているのだ……

 レイモンドの目が大きく開かれ正に骸骨の様、黒目が光る「!!!その通りです、ゴードン様!!!良く気がつかれました……それが、この希少金属の最大の問題点!!!」問題点などと言いながら、彼は嬉しそう。

「……成る程、お主それも対策済みかな?」ゴードンがフンッと鼻を鳴らす。

「因みにELTでは有りませんELMです」レイモンドはゴードンの発言を修正する。

「……ナッ、名前など、今はどうでも良かろう」ゴードンは片手で弾く様な仕草。

「すみません……」レイモンドは肩を落とす。

「まぁまぁ……名前は大事だな、レイモンド君、ところでゴードンの質問に対する答えは???」我ながら優しいと思う……労りながら話を進める。

「ええ、人だけを見分ける事は出来ません……あくまでもELMで重量感知した際に発信となります、だからこそ、簡素な付与魔法で量産が容易いのです、敵軍だけを見抜いて発信するELMなど現在の技術では到底実用化出来ません」レイモンド両手で万歳のポーズ。

「魔法は魔法のみで完結するモノでは有りませぬ、他の技術と相互に補完しあう事により効果が最大化すると考えています」レイモンドは徐々に雄弁と成っていた、自分の発言が正しく、効果大である事が皆に理解されて来たからだ。

 今や、皆、興味津々だ……もしかしたら、キルシュナの国境を全てこのELMで囲えたら……何者が通過すれば、たちどころに王都でバレる……もし実用化出来れば、どれだけの人件費が削減出来るか!


「ここからは完璧な対策では無いかもしれません……」彼は前置きした上で続ける。

「先ず、国外から入って来ようとする人間は本来、障壁を越えるのでは無く、幹線道路に設置された関所を利用してキルシュナに入るべきです、それ以外の入国を許している事自体が問題です、山中より入国する様な、移動型遊牧民の方々には申し訳ないが、障壁には『関所にて入国すべし』との忠告文を打ち……無理やり障壁を越える事が無い様、二重三重の告知を設けるべきです、今ならば戦時下です、その様な入国制限も仕方無いと考えます」

 返答を聞いて、私は満足、レイモンドの言う通りだ。

 戦時下なのだ、もともと今回の議題1・3の討論時に入出国の制限を設けるつもりでいた……入る人間、出る人間を把握しなければ、それこそ情報漏洩し戦に負けてしまう……その事をレイモンドから言われ、私は嬉しくなる。

「ならば、動物、落石、倒木……言ってみれば、重量を持った生物・物体がELMを通過した場合は???」私は先程の疑問を口にする。

「これは難しい事ですが、一応感知重量の範囲を50kg~500kgに設定しています、例としては、軽い人体~馬迄の重量を想定しています、その為、その範囲内の重量物の場合は発信してしまいます」レイモンドは眉間に皺を寄せて申し訳ない表情を浮かべる。

「あっ、感知重量は変更可能です……例えば金属鎧を着装している人間が50kgという事は無いでしょうから、下限を引き上げても良いのかもしれません」レイモンドが申し訳なさそうに追加で述べる。


 ……何も申し訳ない気持ちに成る事は無いのだ、これは非常に兵員を削減、或いは兵員の負担を軽減する画期的な技術なのだ……そうだろう……もしELMが無ければ、仮に障壁があったとしても、いつ国境を通過されるか判らぬまま、毎日毎日、国境沿いを警備し続ける任務に忙殺されるであろう。

 それが、ELMからの発信が無いなら、駐屯地で休息も取れる。逆に、ELMから発信が有れば、その場所に向かえばよい。

 ……国境警備という、日常の大きな時間を割く業務をある程度手を抜く事が出来る。

 長期に渡るかもしれない戦争で体力・精神を疲弊する事を少しでも長引かせる事が出来る。


 私は、レイモンドを大事にせねばならない……そう確信した。


「障壁は二層式が良かろう、手前に簡易の障壁で動物の侵入を弾く、その後方にELMを設置する、そしてその後方に本来の障壁を設置するのが良かろう」ゴードンが意見を述べる。

「それが良いな、手前の障壁に進入禁止の忠告を取り付けよう」私がゴードンの意見を補完する。

「そのELMとやらは、埋設深さはどの程度かな」カーハートが確認する。

「あまりに深いと重量感知に誤差が出ます、適正深さは、50cm程度が限界です、当然ですが、地面に転がしていても感知します」レイモンドが答える。

「承知した、その程度なら気楽なものだ」カーハートは安心する。

 議題の1に関して結論が出た様だ。

 進行役が、質疑応答が無いか、確認を取る。

 皆、頷き、「問題無し」の挙手する。

 議題の1が終わった。


「オルセー王、ゴードン様、皆様ありがとうございます」

 痩せぎすな魔法使いが皆に向かい感謝を述べる。

「レイモンド……性急な性格ゆえ、怒ってしまい、すまなかった……」ゴードンが立ち上がって詫びる。

「いえ、私の方こそ、話が上手くなく、いろんな脱線をして、判りにくいと思います」レイモンドも立ち上がり深々と頭を下げる。


 漸く議題の2へ……






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