あなたが枯れてしまう前に。

ゆゆ

グラジオラス

「ねぇ、君は一体誰なんだい?」


かぜの音がさわさわと優しく耳もとを過ぎる。

その風に乗せられツンとした湿布の香りが鼻腔をくすぐった。

眼前の少女は白いスカートとミルクティーの髪を揺らし、くりくりと大きい目を更に大きくさせる。


「あー、うん……。」


何か言いたげな声を漏らし視線を窓の外に流すと、彼女は小さく頷き小さくコクッと喉を鳴らす。

まるで何かを決めたかのように。

そして再び僕を見ると、さっきまでの表情は嘘みたいににっこりと笑った。

その刹那、再びふわりと風が舞う。

彼女のまるで桜の花弁のような甘く優しい香りが部屋を充たした。

風に吹かれて揺れる髪とスカートが余りにも綺麗で見つめてしまう。


「はじめまして。私、病室間違えちゃったみたい!」

「君も入院中なの?」


僕は目が合い、話題を探そうと問いかければ彼女は大きく首を縦に振る


「そうなの!風邪をこじらせて肺炎になっちゃって。あなたは?」

「僕……は……。わからない、んだ。」


言葉に詰まりながらも答えると彼女は眉を寄せて唇をパクパクとさせた。

困った顔でさえ素敵に見えてしまう。

嗚呼、僕は、もう、もしかしたら。


「いいんだ。よく分からなくって。僕も、周りも。発見された時、僕は一人で倒れてたらしくってさ。記憶は無いんだけど、こんな僕でもわかる事があるんだ」


僕がそう笑えば彼女は小さく首を傾げた。


「一つは身体がすっごく痛いっていうこと。もう一つは君の名前が知りたいってこと。」


これを伝えたら困るだろうかとか、知ってどうするんだとか、そんなこと考える頭は無く、我慢が出来ずに声に漏らせば愛しいミルクティーの頭が嬉しそうに笑い口を開いた


「私は、春野結衣。よろしくね、椎名朔くん!」


笑った顔が光にキラキラと照らされて目を奪われる。

見つめていたら何を思ったのか、焦ったように顔を赤くし手で隠す

僕が動けたら今すぐあの愛しくて小さい手を退かして顔を見つめるのに。

もったいない。


「な、名前はねっ……ま、前で……」


ごにょごにょと語尾を小さく漏らし俯いてしまう彼女。

ははは。そんなの、そんなのまるで……。


「僕に会いに来たって言っているようなものじゃないか!」


きっと今、生まれてからこれまで浮かべたことのないような顔をしているに違いない。

ああ、ダメだ。にやけてしまう。

僕の呟きにぼふんっと音を立てて真っ赤になる彼女。

出会いなんて案外、どこから訪れるものかわからないな、なんて。思わず笑ってしまった

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