senseセンシス
コバヤシオサム
第1話 ①Dr.island ②手力男
その島は機械で作られた人工の島だった。
その島はある研究者(博士)の住む島だった。
少女らは島に住む助手ジオの手で被験者として街から島へ輸送された。
その中の5名の被験者は最も優れた被験者として研究者によって選ばれた。
選出されなかった被験者は翌日から島の護衛に就いた。
ジオは人と口を利かなかった。
ジオの目は殆ど見えていなかった。
ジオが優れていたのは嗅覚と聴覚だった。
実験が始まった。
被験者は催眠を掛けられ、不可解な薬品を投与された。
それに伴い5名の被験者に拘束着の着用を強いた。
理由は暴れられて実験自体が台無しになることは避けたかったからで、研究者、つまり博士にとって被験者の命などどうでも良かった。
ジオは周囲に優しくなかったが冷たい訳じゃなかった。
ジオは十数回行われた実験に付き添い、何度も被験者の命が絶えていく場面を目の当たりにしていた。
漸く、ジオは覚悟した。
このコたちは私が助けなくてはいけない。
(でもどうやって?)
「私の命(抑制剤)を使うわ」
ジオは実行した。
博士の言葉も無視して実験を遮った。
ジオの体は生命エネルギーを使い果たし、終わりに近付いていた。
5名には名前があり、生い立ちがあり、生命としての尊厳があった。
それを守れただけでジオは良かった。
だが被験者が自らジオの抑制剤を中断したことによってジオもまた救われた。
「タワー、タップ、ロン、スピ、ノーマーク」
それぞれの目がこれまでになく輝いていた。
博士は島を出ていた。
また、新しい被験者とジオに代わる有望な助手を捜すために。
背の高いタワーと小柄なタップの住む街は島から一番近かった。
哀しい紛争が何年も何年も続いた街だった。
タワーは怒りっぽく、タップは不真面目で夢中になれるモノを探していた。
だがその都度、紛争で平和は閉ざされた。
そして今まさにその平和が閉ざされかけようとしている。
男は決して笑わなかった。
男は自らを「手力男(タヂカラオ)」と名乗った。
筋骨隆々の巨体が白昼堂々と鋭く光る凶器を振りかざす。
その手には良く研がれたデカい斧が握られ、バスも家も何もかもを一刀両断にして斬り捨てた。
地元民のタワーとタップは買い出しに出ていた。
「あれ、今乗ってきたバス」
背後から切断魔「手力男」がゆっくり迫り来る。
「なんてこと、あたしの家よ」
雑踏の中、ショーウィンドウの人影に奇妙な反射物が映り込む。
「走れ」
タワーが食堂の厨房に駆け込むとタップは頭上に振り翳された斧を瞬時に避けた。
蹴りを一発お見舞いするも手力男はビクともしなかった。
「何なのよ?」
手力男は厨房に逃げ込んだタワーを見失っていなかった。
「チョロチョロと!」
厨房を抜けると裏道に出られたが厨房でコックと激しくぶつかり、胸ぐら掴んで投げ飛ばしていたりしたから、死角から横一線で斧が投げ込まれたことに気づかなかった。
タップはタワーの立つ足下に野球少年のようなヘッドスライディング。
首を掴むとタワーも屈んだ。
「加速がヤバい」
斧がヒュルヒュル2人の間を抜けていく。
目を見合わす2人。
「あたしも力がこんなに漲ってる」
壁に突き刺さった斧を回収する手力男。
「ショボい飯だ」
真っ赤に濡れた壁、これまでの惨殺の光景が目に浮かぶ。
投斧した所から打ち込まれた壁まで2フロア。
「はぁ~い?足が速すぎて体がついて来られなかった」
棒立ちの手力男のすぐ真下に寝転ぶタップがいる。
あまりの意表を突いた行動に驚きを隠せない。
しかし振り翳す縦一線。
待ってましたと言わんばかりにタワーが白羽取りをかまし、左右に揺らし刃先から斧刃部位を粉々に打ち砕く。
「博士はお前達の死を望んでいる。お前達を作った博士は…」
タワーはそのまま胸ぐらを掴んで、何発か喰らわし、蹴りを決め、手力男を通りのゴミ箱に放り込んだ。
すぐに立ち上がることは不可能。
致命的な骨を幾つかへし折ってやった。
そう、タワーが確信すると目頭が熱くなり捨て台詞が自然と口から、
「…あばよ」
と、零れた。
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