できそこないの放課後置き場

古歌良街

放課後の病院にて

 徳永君は倒れているところを発見され、病院に搬送された。

 なぜ倒れていたのかはわからない。

 朝のホームルームで担任がそのように告げた。

 学級委員長は帰りのホームルームで徳永君のお見舞いを提案した。

 放課後、委員長を含めて四人のクラスメイトが徳永君の入院している病院へと向かった。

 病院のそばで牛がモォーと鳴き、さらに蝶がヒラヒラと飛んでいたが、それが徳永君が倒れた原因と何か関係があるかもしれないと学級委員長は思った。学級委員長は何かとクラス全員の世話を焼く大したやつだったが、ときおり本気のオカルト信者に見えることが珠に傷だった。

 病室の徳永君はなんと意識がない状態で、起きる様子がないということだった。

 その日はたまたま七夕だった。委員長は短冊が沢山ついた笹を病室に持ち込んでいた。徳永君の回復を祈るクラスメイトたちの励ましが短冊には書かれていた。

 委員長の他の三人も、それぞれお見舞いの品を抱えてきていた。三人とも、四角い箱型のものだ。

 徳永君の家に一番近いところに住んでいる佐々木君は金属製の缶を枕元に置いた。

「海苔(のり)を持ってきた。病院食の味気ない朝食はつらいからな。いっとくけど、そこらへんの味海苔にくらべたら最高級の品だからな」

 徳永君の隣の席の山田さんは、デザインだけを重視したような奇抜な色使いのラジオを置いた。

「これ、こないだ懸賞で当ったって話してたやつ。ほしい賞品はABCってテキトーに書いたらA賞が当っちゃったやつ。雑誌見ててどのプレゼントも正直いらないなー、って思ってたのに当ったんだよね、話したっけ? 家に何台もラジオあるし、あげるね」

 最後に、徳永君の一番の親友だった島田君も箱をさしだした。箱のフタをスライドさせると、室内に濃厚な、食欲以外の全てを忘れさせるような匂いが漂い始めた。この島田君の箱はラーメンを密閉するためのものだった。

「まさかこれを持ち込めるとは思わなかったよ。でもこっそりと持ってきてやった。徳永、お前がいつも楽しそうに話していたあの店のラーメンだ。これさえあれば何もいらないってくらいのものなんだろう? このラーメンはなんなのかきかれたら『人生』ってこたえるんだろ? ラーメン二郎にインスパイアされた系のあの店の「ラーメン次郎」のラーメンが。それにこのラーメンには店主の念がこもっているんだ。店主もお前がたちどころに元気になるようにと念じてくれているんだ。ニンニクチョモランマアブラカラメ全マシマシの特別製ってやつだよ。信じがたいほど美味いだろうな。さあ、ここにお前の人生があるんだ。はやく目を覚ましてくれ!」

 しかし徳永君が目を覚ます気配はない。

 徳永君と四人のクラスメイトだけの病室に、島田君が涙をすする音を別とすれば、長い沈黙が続いた。

 委員長は、徳永君のためにもっと何かできることがないかを考えていた。

 短冊のついた笹を握り締めた。ここには確かに快復の願いが沢山込められている。しかしこんな笹についた紙切れに書かれた文字なんか、宇宙にいる神から読めるのか。星の世界から読めるのか。神の立場からしたら大量にあるダイレクトメール、バンバン捨てるだけのチラシと同じじゃないか。広告は目立たせないとダメだ。たとえばキラキラ光って見えるとか。

 委員長は突然それを星の世界から少しでも見えるようにする手段を思いついた。

 窓の外で明るく燃え上がらせればいいのだ!

 いや……それはたんなるとっぴな行動ではない……

 この笹に火をつけて燃やしたら……

 何かが『そろう』気がする……

 高級海苔がここにあるのも、テキトーに当った懸賞のラジオや、店主の思いのこもった「ラーメン次郎」のラーメンがあるのも必然のはず……

 そしてこの笹……に火をつける……

 そこには徳永君の復活に必要な何かが……


  !!!!!


 委員長は気付いた。わかったぞ!

 島田君がライターを持っていることを知っていた委員長はそれを借りた。

「……何に使うんだ?」

 委員長はおもむろに笹にライターを近づけ、カチッと点火しようとした。

「……何?」

「ここ病室だよ!?」

「なにがしたいんだ!? やめろ!」

 皆、委員長が狂ってしまったのかと(それでも病院にいると気付いて小声で)叫ぶ。島田君は発狂者をどうにかしようととびかかろうとした。

「黙って見ていろ!」

 委員長の一喝に、皆はたじろいだ。委員長は何かを確信していた。

 笹に火がついた。

「全てわかったんだ! 奇跡がここで起こらなくてはおかしいんだ! 徳永君はよみがえる! 全てがそろっている! 四つの全てが!」


*****************

    笹焼き  いい海苔

    A賞   念次郎

*****************


 委員長は、徳永君が目を覚ますと確信していた。

 私たちはその方法には最悪の事態が起こるリスクがあることを知っているが、幸い徳永君は目を覚ました。


   [完]

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