第463話

 草案はパソコンに慣れてる私が作ってきた。

「これですけど……」

 デスクの中央にあるノートパソコンを、全員でぐるりと囲む。

 響希さんが目を見張った。

「ほんとに栞ちゃんが作ったの? すごい、すごい!」

「どこにでもあるホームページを真似しただけですよ。特別なことは何も……」

 すでにメンバーのプロフィールは八割がた完成してる。写真も入ってるわ。

「ロゴなんかはデザイナーさんにお願いしたいと思います」

「おう。月島はセンスがねえから、矢内にやらせるか」

 活動報告やブログへのアクセス……大体の機能は一通り揃ってた。

 雲雀Pが満足そうに頷く。

「私のあのテキトーな指定書から、よくここまで仕上げたなあ」

 このひとが一番、私に依存してるかもしれない。

「プロフィールの文面は詠に書かせました」

「ふぅん? どれどれ……」

 問題はここからね。


<天城 響希>

 B:96 W:53 H91


「ちょちょっ、ちょっと待って? なんでスリーサイズ……ってか、数字がおかしい!」

 さしもの響希さんも仰天して、早口にまくし立てる。

 麗奈さんは不安げに我が身をかき抱いた。

「ま、まさか……変な写真を載せる気じゃない、ですよね? 雲雀さん……」

 律夏さんがケータイを開く。

「麗奈の水着のなら、あたし、持ってるよ? ジムのプールで撮ったやつ」

「ぼぼっ、没収! すぐに消しなさい、律夏ぁ!」

 その後ろで環さんが生唾を飲む気配はするも、流すことにした。

 雲雀Pが溜息をつく。

「写真はステージ衣装のでいいだろ。で? 内容は……」

 今度こそプロフィールの中身へ。


<天城 響希>

 天真爛漫、ANGEのリーダー。

 キーボードを担当してるんだよー、エヘヘッ。

 好きな食べ物はイチゴでぇ、体育はちょっぴり苦手かも?

 パパがだぁ~い好き!


<葛葉 律夏>

 ANGEのワイルドなドラム担当。

 可愛い子は食べちゃいたい、アブない堕・天・使。

 あなたのハートにもビートを刻んじゃうゾ。

 お兄ちゃんがだぁ~い好き!


<速見坂 麗奈>

 ANGEのギタリストとは私のことよ。

 趣味はお風呂。最近はミルク風呂でお肌をケアしてるわ。

 想像しちゃう悪い子には、個人レッスンなんだからね?

 年下の男の子がだぁ~い好き!


<篠宮 環>

 ANGEのメインボーカルよ。おっ、憶えておきなさい?

 何でも先輩とお揃いにするのがマイブームなの。

 髪留めとか、パンツだって……きゃあっ。

 お姉様がだぁ~い好き!


「ちょおっと……頭、冷やそうか……」

 そう言って、律夏さんはシャドーボクシングを始め。

「詠さんとはお話が必要みたいね」

 麗奈さんもこめかみに青筋を立てる。

 そして環さんは怒号を放った。

「これじゃあ、変態じゃないですかあっ!」

 三人分の怒りに気圧され、臆病者の私は壁際まであとずさる。

「……で、大羽? お前のプロフィールはどうした?」

「自分のは私が消しました。あまりに見るに……いえ、読むに堪えないので」

「それはズルいんじゃない? 栞チャン」

 そんな中、リーダーの響希さんだけは苦笑い。

「メチャクチャ書かれちゃってるね、みんな。わたしのプロフィールは、好きな食べ物が違うくらいだけど」

 いやいやいや……。最後の一行は響希さんのが一番、やばいんですけど。

「天城、お前の好きな食べ物って?」

「牛タンかな」

「イチゴにしとけ……」

 やっと律夏さんが落ち着き、プロフィールの出来を分析する。

「なんとなくキャラ掴んでるのが、腹立つよね」

「こんなふうに思われてたのね、私たち。次に会った時、冷静でいられるかしら……」

「無理ですよっ!」

 満場一致で妹の処刑が決まった。

 雲雀Pが無難な人材を指名しなおす。

「篠宮、お前が書け。この中ではお前がファン目線に近そうだ」

「は、はあ……わかりました」

 ひとまず、これでオフィシャルサイトの件は完了ね。

「そんじゃー、次に……あぁ、ちょい待て」

 ミーティングを再開するも、雲雀Pは電話のために席を外す。

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