第220話

 病みあがりの私を、過酷な仕打ちが待ってたりする。

 定期試験の結果が返ってきて……。

 一喜一憂? まさかまさか。『零喜全憂』なんて四字熟語を作りたくなる有様だよ。

 はこぶね荘のリビングで、NOAHのメンバーは聡子さんに答案を提出する。試験の結果は聡子さんを通して、社長の井上さんやみんなの両親に報告されるの。

 いの一番に褒められたのは、もちろん杏さん。

「さすが杏さんですね! あのL女で学年六位というのも頷けます」

 杏さんは照れ笑いを浮かべつつ、評価の一部を訂正する。

「今回は八位でしたから、六位ほどでは……」

「似たよーなもんでしょ、それ」

 同じL女の奏ちゃんはやれやれと肩を竦めた。

 奏ちゃんだってL女の編入試験を突破しちゃうくらいだもん。最近はアイドル活動を優先してたとはいえ、まずまずの成績をキープしてる。

「奏さんは五教科の平均が72ですか。歴史ひとつで結構、落としてますね」

「歴史はちょっと……ね」

「奏にとってのピーマンみたいなもん?」

 そもそも『L女学院の生徒』って時点で、学業は優秀に決まってた。編入試験の際は奏ちゃん、ギターや作曲の腕前も考慮されたらしいけど。

 咲哉ちゃんも試験の結果にはけろっとしてる。

「平均が80オーバー! これなら咲哉さんも心配いりませんね」

「一昨年は芸能学校を中退したあと、ずっと勉強とトレーニングの生活でしたから」

 すごいなあ……。私だったら仮に高校を入りなおすことになっても、そこまでストイックに勉強できるとは思えないよ。

 杏さんが咲哉ちゃんの答案を眺め、その瞳を瞬かせる。

「……あら? 咲哉の学校はまだ三学期制なのね」

「そうなのよ。だから定期試験もみんなより一回、多いんじゃないかしら」

 近年は海外に倣って、二学期制(前期・後期)を採用してる学校が多いんだって。私の高校も大分前から二学期制で、定期試験は年に四回実施された。

 五月に前期の中間、七月に期末でしょ?

 それから十一月に後期の中間があって、学年末試験は二月に来る。

 はあ……数えるだけでも気が滅入っちゃいそう。勉強が苦手な人間にとって、テストが楽しいわけがな~いっ!

「次は結依さんのを見せてください」

「……ハイ」

 でも聡子さんの手前、声を大にしてまで反抗できなかった。

 さっきまでメンバーの秀才ぶりに舌を巻いてた聡子さんが、俄かに眉を顰める。

「平均は51点……なかなか際どいラインですね」

「きょ、去年の学年末は46点でしたから!」

 せめて成長をアピールするものの、マネージャーの評価は手厳しかった。

「苦手な教科がとことん苦手みたいですね、結依さんは。数学は38点……確か結依さんの学校では、赤点は35点以下だったと思うんですけど」

「お、仰る通りです……」

 同じ学校、同じクラスのリカちゃんはしれっと言ってのける。

「よりによって担任の早坂先生の数学が、なのよねー」

「うぐ。だ、だって難しいんだもん」

 数学が赤点すれすれだったおかげで、実はもう早坂先生にも釘を刺されちゃってた。担任やってる私の立場がないでしょ、って……。

 三年生の杏さんがこほんと咳払いした。

「一緒に住んでるんだし、いつでも教えてあげるわよ、結依。数学以外でも」

「杏さん……!」

 持つべきものは頼れる先輩――と思ったのも束の間、奏ちゃんが横から口を挟む。

「同じ二年生のほうがいいんじゃない? 試験の範囲も被るでしょうし」

「あ。それもそっか」

 咲哉ちゃんはにこやかに微笑んだ。

「数Ⅱや数Bは同じよね? 進み具合も多分」

「咲哉ちゃ~ん!」

 持つべきものは仲間だね(なるべく同じ学年の)!

 なんてふうに乗り換えると、杏さんが頬を膨らませる。

「わたしがいるのに……奏? せっかくの出番を取らないでちょうだい」

「心の狭い先輩ね、もう。誰が結依に教えても一緒じゃないの」

「も、もちろん杏さんのことも頼りにしてますからっ!」

 そして最後にリカちゃんの結果について。

 聡子さんは眼鏡越しに目を丸くした。

「97点っ?」

「え? ちょっ、私にも見せてください!」

 今の今までリカちゃんの点数を知らなかった私も、浮き足立つ。

 なんとリカちゃん、英語が97点だったの。オーラルコミュニケーションも93点って高得点をマークしてた。

 そういえば、筆記体が達者だったような……。

 リカちゃんは鼻を高くする。

「そりゃあ、洋画だって観るワケだし? 英語は子どもの頃からやってたもん」

 杏さんや奏ちゃんはすっかり感心してた。

「意外ね……勉強嫌いのあなたが」

「好きなことだと集中できるってわけね。要領のいいアタマしてるわ」

 私は咲哉ちゃんを盾にしつつ、リカちゃんを非難轟々にしてやる。

「リカちゃんの裏切り者ぉ~! 信じてたのに~!」

「ほら、結依ちゃんが怒ってるわよ?」

「そう来ると思ったから、点数は内緒にしてたんだってば」

 しかし(私にとっては)幸いにして、リカちゃんの試験結果でブーストが掛かってるのは英語だけだった。ほかの教科には赤点もちらほら……。

 杏さんがさっきの評価を取りさげる。

「はあ……やっぱりリカはリカね。週末に補習があるんじゃないの? これ」

 それでもリカちゃんは悪びれたりせず、苦笑いを浮かべた。

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