第207話
NOAHにとって強力なライバルになるかもしれない、三人組のアイドルグループ。私たちはパティシェルを追って、ミュージックプラネットに出演するんだ……。
やがてお風呂から聡子さんが戻ってきた。
「お風呂空きましたよー。あぁ、ミュージックプラネットですか」
トレードマークの眼鏡越しに、少し眩しそうに目を凝らす。
「……」
急に黙りこくっちゃう聡子さんに、私はソファーから声を掛けた。
「どうかしたんですか?」
「あ、いえ……パティシェルは可愛いなと思いまして」
聡子さんはテレビから目を離し、奏ちゃんのノートパソコンを覗き込む。
「課題の作詞はみなさん、出来上がってるんですね。それでは預かっておきます」
出来は別として、これで肩の荷が降りたよ。
「次はお風呂、咲哉ちゃんがどうぞ」
「そう? じゃあお先に」
私たちはミーティングを切りあげ、連休最後の夜を気ままに過ごす。
ところが翌日、聡子さんの裏切りを知ることに――。
「えええええっ?」
お夕飯のあと全員で、奏ちゃんのノートパソコンを覗き込んだうえでの悲鳴。なんと私たちの手掛けた歌詞が、NOAHのオフィシャルサイトに掲載されちゃってたの。
会員専用の掲示板にはたくさんのコメントが寄せられてる。
『結依ちゃんは頭の中も可愛いことが判明したね』
『奏ちゃんは厨二病だったのか……』
『リカちゃんと杏ちゃんの手抜きっぷりが(笑)。開きなおったのかな』
新曲のダンスを練習してる間に、自作のポエムを大勢のファンに読まれてたなんて……杏さんもリカちゃんも奏ちゃんも青ざめる。
「聡子さん! これはどういうことなんですかっ?」
「そーよ、そーよ! 公開するなんて一言も」
マネージャーの聡子さんは『ゴメンネ』と両手を合わせた。
「社長の作戦なんですよ。新メンバーの発表に先駆けて」
その言葉に私ははっとする。
咲哉ちゃんは奥ゆかしい仕草で笑いを堪えてた。
「ふふっ。よく見て? 結依ちゃん」
「ええっと……あっ!」
私と同時に奏ちゃんも気付く。
「咲哉だけ名前が載ってないわ。『新メンバー』としか……」
ファンの間でも徐々に話題になり始めていた。御前結依、明松屋杏、玄武リカ、朱鷺宮奏に続いて、五人目のメンバーが存在することに。
杏さんは関心気味に呟く。
「この歌詞から新メンバーを予想させることで、盛りあげるのが狙いなのね」
「なるほどねー。井上さんが考えそうなことじゃない」
リカちゃんは肩を竦め、咲哉ちゃんにウインクを送った。
「なんたってNOAHの新メンバーが、あの九櫛咲哉だもん。どうせなら発表前から盛りあげて、最大限にサプライズしなくっちゃ」
「そっかあ……面白くなってきたね」
二週間後、私たちは地上波の生放送『ミュージックプラネット』にて、九櫛咲哉のNOAH加入を大々的に発表する予定なの。
でも単に発表するだけじゃ味気ないから、井上さんが先手を打ったわけ。
聡子さんが私たちに釘を刺す。
「ひょっとしたら新メンバーは九櫛咲哉と推測するファンも出てくるかもしれませんが。みなさんも学校でうっかり口を滑らせたりしないよう、注意してくださいね」
ほかでもない私に言ってる気がした……とほほ。
「よろしくね、みんな」
もちろん咲哉ちゃんにお願いされたら、断れないよ。
「任せて! ねっ、リカちゃん」
「ちゃんと気をつけまーす」
リカちゃんはメンバーの中で一番芸暦も長いし、大丈夫だよね。
杏さんと奏ちゃんは頷きながら目配せする。
「L女で質問攻めにされるようなことはないでしょう。多分」
「よくできたお嬢様ばかりだもの。はあ……まだ慣れないんだけどね、あたしは」
名門の女子高って想像つかないなあ。
「音楽の授業でバイオリン習うって、ほんと?」
「ほんと、ほんと」
そのうち奏ちゃんに『ごきげんよう』って挨拶されたりして。
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