異世界に転生したけど、種族差別があったのでどうにかしようと思います。

風御紫苑

第1話 トラック事故からの転生

「おーい緑川。飲みに行くぞ~」



よく通る声の上司に声をかけられた俺、緑川大地みどりかわだいちは、振り返って答えた。



「いやいや、無理ですって。まだ片付けないといけない書類が残ってて、今日も残業なんで……」



俺は、そう言って苦笑いを浮かべて、パソコンに向き直った。



「そうか…んじゃ、頑張ってな」



上司はそう俺を激励し、飲みに行ってしまった。


静かな仕事場には、カタカタとパソコンのキーボードを叩く音が鳴っているだけになった。






しばらくして、仕事を片付け終わった俺は、パソコンの電源を落として椅子から立ち上がった。



「お疲れ様です。お先に失礼します」


出入口の前まで来てそう言うと、まだ残っている何人かが顔を上げて「お疲れー」と返事をしてくれた。


その言葉に、軽く頭を下げながら、俺は仕事場を後にした。



****



帰路について歩き、交差点の信号が赤に

なった所で立ち止まろうとした。


すると、その直後にまるで誰かに殴られたような痛みを後頭部に感じ、足元がふらついた。


視界もぐにゃりと歪み、足に力が入らず、止まらないといけないのに止まれず、ふらついた足取りで横断歩道にヨロヨロと歩み出てしまった。


パッパー!!とトラックの物凄いクラクションの音が辺りに鳴り響く。


避けなければいけない、そう頭でわかっていても、身体が思うように動かない。



次の瞬間、俺は凄い勢いで走ってきたトラックに思いっきりねられた。


とてつもない痛みと衝撃に見舞われ、俺の意識は飛んだ。



****


あー……俺このまま死ぬのか……。


まだ買うだけ買ってやってないゲームとか、録り溜めてたアニメとか観れてないのに……。


こんな未練タラタラな状態で死んでしまっては悪霊とかになってしまわないだろうか……などなど色々な考えが頭を巡った。



しばらくして、痛みと衝撃を受けた時から真っ暗になっていた視界が急に明るくなった。


突然のことに、何度か目をしばたたかせた。


まず目に飛び込んで来たのは優しそうな微笑みを浮かべた女性と、目にうっすら涙を溜めた男性だった。


次に目がいったのは、褐色の小さな手。


大きさからして赤ちゃんの手だろう。


産まれてすぐってこんなに小さな手なんだな……と思いその手に触れようとした。


が、それは叶わなかった。


いまいち状況が理解できないんだが……?



「あなた、この子の名前、どうしましょうか?」


そう言った女性は、赤ちゃんの小さな手を上から優しい手つきで撫でた。


すると、何故か俺の手にも心地よい温かさの物が触れた。


きっとこの女性の手だろう。


だが、彼女は間違いなく赤ちゃんの手を撫でている。


要するに……この手は、俺の新たに生まれ変わった身体の手ということだ。


唐突に事実に気が付いた俺は少し茫然自失とした。


俺がぼーっとしている間、男性はうーんうーんと唸ってはっとした顔でこう言った。


「よし!この子の名は、ヴェルデ。ヴェルデ・テール・エスペランザだ!!」



生まれ変わったことに多大な衝撃を受けたため、俺を抱いているのが新たな俺の母親で今名付けてくれたのが父親だと理解するのに少し時間をようしてしまった。


……名前、長いな……ヴェルデ、なんだって?


「あうぅぅ……(マジかぁ……)」


思わず口から呂律の回らない言葉が零れ出る。



次の瞬間、赤ちゃん特有の唐突なる睡魔が襲ってきて、必死の抵抗虚しく眠りに落ちてしまった。



****

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