私を見るな

@lemonsour

第1話 一人暮らし

「じゃあね、凛。ちゃんと自炊するのよ。何かあったら電話なりなんなりしてね。」

「うん。わかった。帰り道暗いだろうから運転気をつけてね。引っ越しの手伝いしてくれてありがとねお母さん。」


ガチャリ。

部屋に鍵をかけただけでなぜか心がキュッとする。

私は今日から大学進学のために宮城で一人暮らしを始めた。北海道と比べると宮城は雪が降らない。

三月なのに積雪には縁遠い。

私は本当に何も知らない土地で過ごしているんだと、曇った窓ガラスを指で撫で、外を見た時に酷く切なく感じる。


「エアコンつけよ。」

10分もすればワンルームの空間は暖かさに包まれた。

しかし、駅近でセキュリティもしっかりしていて、お風呂トイレ別にも関わらず、家賃が4万円代なのは本当にありがたい。どうやら数年前に三階の一室で自殺が起きて以来人気が落ちたということだったが、霊感のない私には関係のないことだ。それに私は二階の角部屋だし、その一室とは離れている。大家さんの話でも心霊関係の苦情もないらしい。つまり、破格の値段で最高の新生活ということだ。


「ふぁーぁあ。もう寝よっと。アラームは...いっか。」一人暮らしになると独り言が増えるというが、これは本当のことだと思った。そのうちテレビに話しかけたりしちゃって、なんて思いながらウトウトしながらスマホの画面を見てだらだらする、この時間は最高だ。


ピーンポーン。ピーンポーン。ドンドン 


「んー、うるさいなぁ。」

私はいつのまにか眠りについていた。スマホのディスプレイには深夜2時と表示されている。少しはっきりした頭でさっきまでインターホンが鳴っていたことを思い出した。

「ん...?ドンドン?」

おかしい。部屋の前に来るには、まず私がインターホンで相手を確認して了承しないと来れないはずだ。もちろん他の住民とは一度も会っていないし、私の部屋を訪ねてくる人はいない。


「...ま、いっか。ねよっと。」


その時の私は、特に気にも留めれなかった。


その後、この部屋で何が起きるかなんて、あの時の私には想像もできなかった。

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