第88話 元勇者 ローザの魅力に気づく

 ちょっと高かったけど、いっぱいクエストをこなして、大金を得たらみんなで来よう。


「じゃあこの後も、いっぱい遊ぼうか!」


「うん!」


 そして俺たちはにぎやかな街へと繰り出していった。

 そのあとも、いろいろな所に行く。図書館に博物館、それから人通りが多い繁華街。


 繁華街で無邪気に楽しむローザ。博物館で初めて見たものに好奇心旺盛に反応するローザ。

 その時のローザの顔は、以前見た暗い表情は微塵もない。笑顔にあふれた、かわいい姿そのものだった。


 いつまでも、この笑顔を、失うことが無いようにしていきたい。


 そして日も暮れ始めた時間。俺たちはホテルに帰ることに。



「ふ~、今日は楽しかったね」


「うん。陽君、ありがとう」


 ローザの心からの感謝。今日1日、ローザといることができて、本当に良かった。またどこかで時間を作って、こんなことしたいな。


 そしてホテルに戻る。フロントでカギを受け取り、ドアを開け、部屋の中へ。


 キィィィィィィー。


「ただいま~~」


「ルシフェル。帰ったよ、ってまだ帰っていないのか」



 セフィラとルシフェルはどこか遊びに行っていると聞いたが、まだ帰ってきていないらしい。


「とりあえず、夕飯はみんなが帰ったらにしよう。」


「うん」


「と、とりあえずルシフェルちゃんとセフィラちゃんが返ってくる前にシャワー浴びてくるね」


「ああ、そうだな」


 2人がいつ帰ってくるかわからない。だったらその前にシャワーを済ませた方がいい、というつもりで彼女の意見を聞いたのだが──。


 ズッ──、ズッ──。


 ローザがいる場所から物音がするので、その方向に視線を向けると、何とローザが服を握始めた。

 俺は慌てて視線を逸らす。


「なんで目をそらすの?」


「あ、当たり前だろ服を脱ぐなら更衣室で脱ぐのが普通だろ!」


 当たり前だ。ローザとは別にそういう行為をする関係じゃない。こんなところで間違いをするわけにはいかない。当然断る。


「う、うぅ……陽君」


 すると、うるうると涙目になるローザ。ど、どうすればいいんだ?


「やっぱり、陽君はパトラさんみたいなスタイルがよくて大きい胸をした人がいいんだーー」


「そ、そんなことないよ。ローザだってローザの良さがある。素敵だと思うよ」


「私の良さ、それってこんな感じ?」


 そう言うと何とローザは両腕を後ろに移動させ前のめりの体勢になる。

 ローザの控えめな胸が見れてしまう。それだけじゃない。彼女の真っ白で綺麗な肌がすべて見えてしまう。


 幼い顔つきと体系。それと反比例するような大人びた官能的なポーズ。理性が飛んでしまいそうになってしまう。

 俺は絶句し顔をそむける。


「いや、ダメだって!!」


 そりゃそうだ。今の彼女は見えてしまっている。そしてローザは俺に接近し……。



 ギュッ──。


 俺を抱きしめる。



 純白でなめらかな肌がぎゅっと触れる。暖かい彼女の体、ぬくもりが俺の肌に伝わってくる。


(ま、まて、ここで間違いを犯しちゃだめだ)


「ロ、ローザ、止めろ。そういうのは、俺よりももっとイケメンでかっこいい恋人を見つけてからやるんだ」



 ローザは不満そうにぷく~~っと顔を膨らませる。


「そんなことないよ。陽君、陽君だって、かっこいいと思うよ!」


 一歩も引かないローザ。まずい、どう対応しよう。

 と、とりあえず、服を着せよう。


「ローザ。褒めてくれたことはとても嬉しい。けど、まだ付き合ってもないのにこういうことをするのはよくない。ローザは、優しくて、どんな事にも一生懸命で、とても素敵な人だと思う。だから、ここは落ち着いて服を着てほしい。そんなことをしなくても、ローザの事大切に想っているから──」


 俺の想いが通じたのか、ローザは床に落ちている服を拾いはじめた。良かった。ローザは頑固なところはあるけれど、ちゃんとわかってくれるところはわかってくれる。


「とりあえず、先にシャワー浴びてきなよ」


 そして一緒に床に落ちている服を拾い、ローザにシャワーを浴びるよう諭した瞬間、悲劇は起こってしまった。


 キィィィィィィィィ──。


「陽君、ローザ、ただいま。祭り、楽しかったわ」


「ローザ様。陽平さんとの1日はどうでしたか?」


 見計らっていたのかとでもいうべき最悪のタイミング。ルシフェルとセフィラが返ってきてしまったのだ。


 客観的にこの状況を考えてみる。下着姿のローザ。俺はローザの服を持っている。

 パッと見だと俺がローザの服を脱がし、よからぬことをしようとしているシーンに見えないこともない。


 とりあえず俺は釈明を始めた。焼け石に水であると感じながら……。


「ルシフェル、セフィラ、落ち着いて聞いてくれ。これは誤解なんだ」


「最っ低! 私たちがいないのをいいことにそんなことをしようとしてたの?」


 2人の眼からこれでもかというくらい殺気があふれているのがわかる。おそらくどれだけ弁解しても話が通ることはないだろう。

 セフィラも顔を真っ赤にしながら俺に詰め寄ってきた。


「最低です、陽平様! ローザ様と、こんな不埒なことをしようとしていたなんて!」


「そ、そんなことないって。俺の話を聞いてくれ!」


 騒々しくなる俺たち。待っていたのは、修羅場だった。



 この後、ローザが何とかかばってくれたおかげで、何とか時間をかけて2人の怒りを抑えることができた。


 今日1日で、ローザのことがすこしだけわかったような気がする。


 ローザは、幼い顔つきで子供のような容姿をしているけれど、責任感が強いし、どんな時でも一生懸命な少女だ。

 そしてローザの魅力。子供のような外見をしているけれど、大人びている仕草がとても色っぽい。


 異性としても、とても魅力的だと強く感じる。


 大変だけど、楽しい1日だったと思った。


 戦いがひと段落着いたら、こんな日々を、もう一度過ごしてみたいな……。



 そんなことを考えながら、俺は窓から星空をただ眺めていた。

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