第87話 元勇者 ローザをエスコートする

 そして俺たちは外へ。



 昼前にしてもらった理由は、一緒に店に入ることからだ。

 それもただの店ではなく、貴族たちなどの上流階級の人が入る店だ。


 しばらく歩く。辿り着いたのは行ったことがないいかにも高級そうな店。

 そんなかしこまった感じの店の中に入る。


「いらっしゃいませ」


 高級店という感じで、タキシードを着た紳士のような人が出て来た。すぐに机へ案内。


 テーブルクロスが敷かれた上品な机に、高級そうな金属でできた椅子。



 周囲を見渡すと、落ち着いた様相で食事を堪能しているマダムや、上品なそぶりをしたセレブの人がいて、さすがはお金持ちの貴族御用達の店だと感じた。


 そしてタキシードを着た店員の人がメニューをこっちの方向に向けて渡してくる。1つ1つの仕草が丁寧。とても気遣いができている店だと感じた。



 とりあえず、一番安いコース料理を頼む。

 この店は貴族御用達だけあって、値段も高級感がありすぎる。少し恥ずかしいが、仕方がない。


 注文を取ると、俺はローザと一緒に会話をする。


 日頃の生活で困っていること。セフィラとのこと。それからパトラさんと行動していた時のこと。


「セフィラちゃん。最近笑顔が増えて本当に嬉しい。昔は、私のことばっかり考えていて、どこか楽しそうじゃなかった。けど、今はどこか自分に自信を持っていて、明るくなってる。陽平君のおかげだと思う」


 そ、そうか。セフィラ、いつも真剣な表情でかしこまっていたからな。それはよかった。

 心なしか、ローザの表情も以前より明るくなっている気がする。きっと自分の居場所ができたからなのだろう。それは、本当に嬉しい。


「俺を感じていたよ。2人とも、俺と出会った時より幸せそうな気がする。それが、本当に嬉しいよ」


「う、うん。陽君と出会って、私幸せ。ありがとうね……」


 ローザの顔がほんのりと赤くなる。このまま、幸せになるといいな。


 そんな話をしていると、コース料理が出てくる。

 最初に出て来たのは小さい皿に盛られた野菜サラダ。


 ローザがフォークを取り出し、出されたサラダを口にする。


「おいしい。初めて食べた。こんな味!」


 確かの、ローザの言う通りだ。野菜はどれも、味が市場で買ったものよりもおいしいし、ドレッシングもとても野菜にマッチしている。さすがは高級店だ。



 それから、前菜やパンなど、小皿に入った1つ1つの料理を食べていく。味はどれもおいしく、値段を出し他だけのことはある。



 そしてメイン料理が出て来た。


 脂身が乗っていそうな高級ステーキ。ローザのテンションが上がり、喜んでいるのがわかる。


「うわ~~。おいしそう!」


 俺もそう思う。早速俺はナイフとフォークを手に取り、食事を始めようとするが──。


 ローザがきょろきょろとして、困っているのがよくわかる。

「ローザ。どうしたんだ?」


「これ、ナイフで切るんだよね」


「そうだけど、習ったことないの?」


 ローザが困った顔で首を縦に振る。さらに聞いてみると、ローザは昔の王家でも見捨てられた存在で、そういう作法を習ったことがなかったのだ。


 俺も、やり方は知っているけど、どう口で説明すればいいかちょっと迷う。どうすれば……。


「仕方ない。ちょっとびっくりするだろうけどこれしかない」


「ど、どうするの?」


「一回体で教えるから、覚えてね」


 そして俺はローザの背後に立ち、両手をぎゅっと握る。彼女の柔らかくて少し冷たい体の感触が俺の腕を包む。

 ローザが理解できるように、ゆっくりとステーキを切っていく。


 できるだけ丁寧に説明を加えながら。


「よ、陽君──」


 ローザの顔が真っ赤になっているのがわかる。


「まあ、口で言うのは難しいけど、こんな感じだ」


 そして俺はローザの手を使ってステーキを切り終えた。正直恥ずかしいい。


「ど、どうかな……?」


「あ、ありがとう陽君。なんとなく、わかったかもしれない」


 ローザは顔を真っ赤にしながら、視線をきょろきょろとさせ答える。またみんなでこんな店に来て、やってみよう。


 そして俺たちはメインディッシュのステーキをいただく。


「すごい、柔らかくておいしい」


 ローザの言葉通りだ。ちょうどいい柔らかさ。それでいて脂身が少なくてくどくない。高級なものを使っているのがよくわかる。


 ローザは、話すことも忘れ、夢中になってステーキをほおばっている。

 元気よく、笑顔で。


「やっぱりローザには、こんな感じの方がいいな」


「ど、どういうこと?」


「変にお行儀よくするより、元気いっぱいで無邪気な方が似合ってるよ」


「あ、ありがとう……」


 ローザの表情が、ほんの少し明るくなる。

 ローザには、堅苦しいマナーに固執する姿より、元気いっぱいに食べている姿が似合う。今のローザ、明るくて、本当にかわいいと思う。


 これで少しは、明るさを取り戻せばいいんだけどね。


 そして食事の再開。

 食事をしながら、さっきの感触を思い出す。


 今でも残るローザの手を握った時の感覚。柔らかくて、髪の毛からは香水のにおいがしてドキッとした。思わず少しかいでしまった。


 あの匂いを思い出すだけで、顔が赤くなり、胸がドキドキする。子供っぽい姿をしながら、大人の色気もあるローザの魅力に、気付いてしままう。


 そんなことを考えながら、メインディッシュを食べ終え、デザートのフルーツが出て来た。

 柑橘類のような、見たことがないフルーツ。


「フルーツ、おいしいよ」


 満面の笑みのローザ。俺もフルーツを口にする。オレンジのような、レモンのような甘酸っぱい味。


「うん、おいしい」


 そしてデザートを間食すると、俺たちは会計を済ませて外に出る。


「う~~。お腹いっぱい。おいしかった」


「そうだね、ローザ」



 ちょっと高かったけど、いっぱいクエストをこなして、大金を得たらみんなで来よう。

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