第67話 元勇者、エマの元へ

 俺はそばで資料をあさっていたルシフェルの肩をたたいて聞いてみた。


「ルシフェル、この意味わかるか」


 ルシフェルはその地図から目をそらし質問に答える。


「私たち魔王軍は侵略した土地をね、ケーキみたいに分けるんだけど、時折魔王軍に寝返らせる約束として約束したらその地域の住民と土地をこうやって与えるの。一時的にね」


「つまりこれ、魔王軍が侵略してきた後の領土の地図ってことか」


「ええ、このサインは彼らが書いたものに間違いないわ。魔王軍とグルになっていたのね」


 これで有罪確定だ。調べればもっと埃が出そう。


 そう考え俺はさらに詮索を続けた




 約1時間後。


「大体調べ終わったわ。いい情報が見つかったわ」


「ああ、俺のいい情報が見つかった」


 こいつらの資料を調べていて、本当に驚いたよ。まず旧魔王側についた人間の数。


 多すぎる。この街の冒険者の数割の数が旧魔王軍から力を受け取っている。いくらこの国は魔王軍と戦火を交えていなかったとしてもこれは驚いた。


「これは予想外でした。それで、どうなさるつもりですか?」


 セフィラの不安そうな表情。しかし俺は特にうろたえることもなく言葉を返す。


「特に考えは変わらない。カイテルに勝つ、それだけだよ」


「で、それまでにどうするつもり?」


 ルシフェルの質問、俺はその答えをこたえるために3人を近くに集める。そして──。


「ちょっと耳を貸してほしい」


 俺は3人い耳打ちをする形で今後の作戦を伝えた。


「わかったわ。じゃあ、そのために行動開始ね」


 意気揚々とする俺たち。うまく成功するといいなあ。

 そんな思いを胸に、俺たちはこの場所を去っていった。







 戦果を挙げた次の日、俺たちは動き出す。


 宮殿の中。

 ルシフェルやローザたちが住む部屋に俺やルシフェルたちはいる。


 俺、ルシフェル、ローザ、セフィラ、パトラ。


 そして──。


「いきなり呼ばれたッチュ。なにがあったッチュ」


 ネズミの亜人の少女。エマがそこにいた。

 ローザが全員にアイスティーを入れる。


「どうぞ、飲んでください」


 俺はその出されたアイスティーを半分ほど飲むと、物静かな態度でエマに話しかける。


「ちょっと話があるんだけどいいかな?」


「な、なにっチュ!そんな見つめて、話なら早くしてっチュ」


 どこか動揺している様子の彼女。明らかに知られたくないことがあるという態度。まあ、心の底ではこれから起こることを理解しているのだろう。


 そしてルシフェルが1枚の紙を差し出す。


「このリスト。宮殿の地下、魔王軍に寝返った人物が持っていた紙よ。ここにあなたの名前が載っているの」


 ルシフェルが見せつけた紙、それは昨日コーザのいた地下の部屋にあったリストだった。

 一番上の目立つところに魔王軍のサイン、それに書いてるとコーザの名前のサインがあった。

 俺たちはそれを見ておそらく魔王軍に寝返った人物だと予想。おそらく利益を配分したり、魔王軍の情報を渡すときなどに使うのだろう


 そしてその一つにエマの名前が載っていたのだ。


「う、う、疑っているっチュか? 」


「疑っていますよ。リストに載っているんですもの」


 強気なパトラの言葉に明らかに動揺しだすエマ。


「そ、そんなことはないっチュ。わ、私はカイテルにも魔王軍にも味方なんかしてないっチュ」


 目はうつろ、言葉は震えていて視線が泳いでいる。口では言ってなくても顔が嘘をついていますと言っているようなものだ。


「嘘をつくならもう少しうまくつくんだな。お前は嘘をつけない人間だ」



「そうよ。顔に出てるもの。動揺しているのがすぐにわかるわ」


 俺とルシフェルの言葉にとうとう観念したのか、エマはぽろぽろと涙を流しながら水荒の罪を語り始めた。


「パトラ、ごめんっチュ」


 話を聞く。そして──。


「これはひどい」


 エマがこの街で受けた仕打ち、それは分断工作というやつだ。


 いくら書いてるが強いといっても、もし冒険者が団結をしてしまえば、カイテル達支配層は下手をすればひとたまりもなく立場を失ってしまう。


 だから冒険者たちが団結することが無いように冒険者達の仲を徹底的に引き裂いたのだ。



 カイテルはまずこの国の住民たちを忠誠度別に分けた。自分達に利益を与えるとそれだけ強い力を渡すと。

 もちろんその力というのは、強力な魔王軍の力だ。


 カイテルハ冒険者としてもかなり名声がある。

 ほとんどの冒険者は、命を懸けてカイテルたち支配層と戦うよりも、頭を下げ、彼らに取り入ることで利益や、強力な魔王軍の力を手に入れてしまうことを望んで、戦うことを放棄してしまったのだ。


「それだけじゃない、カイテルたちは「密告」を奨励したっチュ」


「密告?」


 ローザの言葉通り、カイテルたちは密告をし、周囲の冒険者が怪しい動きをしたら憲兵たちに密告をしてほしい。そうすれば利益を与えると言い出したのだ。


「そして冒険者たちは互いに足を引っ張りあい、密告しあい誰も信用できないようになってしまったっチュ」


「ひどい、どこの恐怖国家よ」


 ルシフェル、ため息をついてあきれ果てる。


「それでエマ。あなたはどうなったんですか?」


 パトラさんのその言葉、エマは目に涙を浮かべながら答え始めた。

 パトラが去るまでは、それなりの地位にいたエマ。しかし、カイテルたちの悪口を言ったといういわれもない密告により、周囲から孤立してしまったのだった。

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