第59話 元勇者 ルシフェルと一緒の布団へ
その後、俺たちとカイテルとの間で話し合いが行われた。
具体的にはラト=ランド家の領地であるチャクロフカ地方へ行くこととなった。
理由は、最後にカイテルが頼み込んだ1つの言葉だ。
俺は国民から慕われていて評価も高い。彼女と俺が手を組めばもっと平和な国づくりができる。1度見に来てもらって、それを見てから答えを出してほしいと自信満々に叫んだのだ。
俺はさすがに難色を示した。しかし。パトラさんの言葉は違った。
「わかりました。そこまで熱意がおありなら、これからもあなたは何かにつけて私との交際をせがんでくるでしょう。それならここであなたの地方を見回って、それで白黒答えを決めさせていただいたほうがいいかもしれませんね。わかりましょう、それで、日にちはいつですか?」
本当に行くのか。彼女のことだし、生まれた地方の現状が気になるとかもあるかの知れない。それにいつまでも粘着されるより、いっそ白黒つけたほうがいいというのは俺も同意だ。
鶴の一言で俺たちの遠征が決まる。日にちは3日後。そしてカイテル、まるで自分の願望がかなったかのような尊大な態度をでこの場を去っていった。
そして3日後、約束の中央公園に俺やルシフェルたちは到着。
すでにカイテルとエマ、パトラさんがいる。
そしてその背後にそこまでの移動手段らしき乗り物があるのだが。
「チャクロフカ地方は馬車でも1週間は掛かってとても遠いっチュ。だからこれで行くっチュ」
「でもこれ、あれですよね」
「どう見ても、キャンプじゃないこれ」
ルシフェルとセフィラは疑問の目つきでそれに指をさす。そう、そこにあるのは2つのキャンプだ。
1つは大きいキャンプもう1つは小さめなキャンプ。
「私達の国では、これが最速の乗り物っチュ」
「乗り物? 言ってる意味が、よく分からないです……」
やはりローザも困惑している。そりゃそうだ。キャンプは乗り物ではない、しかしエマは両手を腰に当て、自信満々に答える。
「キャンプが空を飛ぶっチュ。それで本国まで一晩でひとっ飛びっチュ!!」
その言葉に俺は心の中で突っ込みに入る。
いやいや、キャンプは飛ばないだろ、どう考えてもおかしいだろ。以前この世界にいたときもそんなことは聞いていないし。
そう疑いの目を向けているとエマが自信たっぷりの態度で言い返してきた。
「疑っているっチュね~~。まあ、ここでごちゃごちゃいうより、実際に体験した方がいいっチュよ。ほら、もう出発するっチュ!!」
そしてエマが俺の背中を押しテントの中に俺は入る。そしてエマとパトラ、ルシフェル達も一緒のキャンプへ。カイテルも別のキャンプの中へ入る。
「全員乗ったっチュ。それでは出発っチュ!!」
ピッ──!!
エマが指をはじくと、何とキャンプが光り始めた。そして──。
シュゥゥゥ──、シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──!!!
キャンプが少しずつ宙に浮き始めたのだ。
「キャ、キャンプが、飛んだ??」
ローザが驚きながら叫ぶ。ルシフェルとセフィラも空を飛ぶというのは初めて知ったようで驚いているのが分かる。
そして上空まで来るとキャンプは進路を東に取り進み始めた。
俺は入口から顔を出して周囲を見る。上は大空、下は俺たちが住んでいた街並みが見える。
「うん、いい景色だ。いい景色、なんだけどさすがに上空は寒いな」
それもそうだ。ルシフェルやローザ達も寒いと感じているのか布団にくるまっている。
俺もエマから布団を分け与えてもらおうとするが──。
「布団? ごめんもう布団がないニャ。誰かから借りるニャ」
エマはすでにパトラさんと一緒に布団に入っている。ローザもセフィラと一緒だ、となるとルシフェルと一緒に入ることになるのだが──。
「ローザ、一緒に入っていいか?」
俺はローザに隣に入って大丈夫か問いかける。
「いいよ、陽君。一緒に入ろう~~」
ローザがにっこりと笑って手招きをすると、背後から叫び声が──。
「ローザ? エッチなことする気でしょ!!」
ルシフェルだ。何か気まずいと思ってルシフェルは避けたんだが──。
「しょうがないわ、私の布団に入りなさい。ほら──」
「というかルシフェルはそれでいいのかよ。お前がローザの所に行くというのはダメか? ほら、流石に男女が同じ布団というのはまずいし──」
男女2人が同じ掛け布団とか、間違いが起こったら流石にまずい。
「寒すぎるのよ。1秒たりとて出たくはないわ!! 大丈夫よ。もし手を出してきたらすぐに本来の姿に戻って微粒子レベルにまで粉砕してやるんだから」
「お前が言うと冗談に聞こえないよ」
「冗談じゃないもの」
その言葉に俺は一瞬背筋を凍らせたが。布団がないと背筋だけでなく全身が凍り付きそうだ、仕方ない。
「わかったよ。お前の布団に入るよ」
「素直にそうしなさい。もう」
俺はその言葉通りルシフェルと一緒の布団にくるまる。自然と抱き合うような形になり、彼女の温かい体の感覚が俺の理性を刺激して胸がドキドキしてしまう。
「顔真っ赤、何考えているかまるわかりよ」
「しょ、しょうがないだろ。俺だって男なんだから」
それにこういう経験なんてほとんどないし。するとローザが心配そうなまなざしをこっちに向けてくる。
「陽平さん、間違いを起こさないでくださいね」
「大丈夫だよ。安心して」
とりあえず、景色は帰りにでも楽しもう。ついた先は向こうのホーム。何が待っているかわからない。体力は温全するに限る、もう寝よう。
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