第56話  元勇者 交わした約束を思い出す

「まあ、いい経験になったよ……」


 俺は苦笑いをしながらルシフェルの言葉に答える。



「ルシフェル、聞きたいことがあるんだけれどいいかな?」


「何、デートのお誘いとか?」


 からかうような物言いのルシフェル、それに俺は動じず話を進める。


「俺をデートに誘った理由だよ。何か理由あるんだろ」


「御名答、いい感しているじゃない。腹を割って話したいことがあっただけよ」


 やはり目的があったか、あれこれ理由をつけたけどデートをするなら別にローザでもいいし。


「陽君、あの時の言葉、覚えてる? 私と約束したあの言葉、交わした約束」


 えっ? 何のことだ、交わした約束? 俺は首をかしげながならんとか思い出そうとするが思い出せない。


「え? すまん、ちゃんと説明してくれ。いつの話だ?」


 するとルシフェルが不満そうに顔を膨らませながら叫ぶ。


「果たしていないでしょう。最後の戦いのあと私とあなたが交わした約束、忘れたの? 私は忘れないわ」


 俺はその言葉を聞いて目を閉じて確かめる。えーーと、あっ?? あのやりとりか──。


 それは最後の戦いで魔王のルシフェルが倒れこみ、体が消滅していく中かわした言葉──


「負けたわ、けど約束してほしいの──」


「……なんだ??」


 ルシフェルが最後に約束した言葉、それは自分たちの配下の事だった。それもこの世界にいながら居場所が無く仕方なしに魔王軍に味方した人達の事。


「私が戦っていた理由の1つなの、彼らが居場所を失い苦しんでいいるのを見て、戦おうと私は決めた、だから約束してほしいの」


 自分たちや幹部連中は恨んでもこの人達を恨まないでほしいと。



「彼らは、私達に入るしか選択が無かったの。見た目のせいで誰からも差別された人達、政府から迫害されて私達しか頼るものが無くなった亜人だっている」


 ルシフェルの体が足から蒸発するように消滅していく中、懸命に訴える。俺は膝を突き彼女の手を強く握りながら自信を持って叫ぶ。


「ああ、彼らを不幸になんてさせない。だから後は俺にまかせてくれ」



 そしてルシフェルの姿は完全に消滅していった。





 話はこの世界に戻る。


「ああ、全く守れていないな──」


 そう囁きながら俺はため息をつく。全く守れずに追放されちまったんだもんな。


「そうでしょ、だから私はこの世界に来たの。そんで私だけじゃどうにもならないからあなたにもう一度戻ってきてもらったの」


「んで。約束も守れなかったことを攻めに来たのか?」


 俺は冷めた態度でルシフェルに言葉を返す。


「別に期限なんて決めていないわ。これから果たしていけばいいじゃない」


「これからねぇ……」


「そうよ、落ち込む必要はないわ。別に期限なんて決めてないもの」


 屈託なく、平然とした態度でしゃべる。まあ、そうだよな──」


「わかったよ、確かにうまくいってはないけれど、現実を見て一歩一歩やっていくよ」


「あたりまえでしょう。すべてが自分の思い通りにいくわけがないでしょう。失敗する人ってそこが理解していないのよ」


「魔王になってから、いろいろな人たちと接してよくわかってきたわ」


 元魔王様の厳しい言葉、けど正論だよな──。うまくいかない中でどうやって最善の答えを出していくか。それだよな……。



「ありがとう、何か元気出た」


「どういたまして。一緒に頑張りましょう」


 そう言って俺は席を立つ、それにつられてルシフェルも立ち上がる。そして2人並んで席を立ち公園の中を歩こうとすると……。




 ギュッ──。


「え! ちょっと、どういうこと??」


 突然のルシフェルの行動に俺は驚愕しフリーズしてしまう。ルシフェルが俺に取った行動、それは──。


「なにあわててんのよ、手をつないだだけじゃない!!」



 なんといきなり俺の手をぎゅっと握ってきたのだ。なんだよ、俺こんな経験初めてなんだぞ??


「そのくらい慣れなさいよ。パトラさんの恋人役やるんでしょ、このくらいで浮ついててどうするのよ!!」


(うっ──)


 ルシフェルの強気な言葉に俺は言葉を失う。確かに、手をつないだくらいでこれではさすがに疑われる。

 俺は何とか平常心を保ち道を歩く。すれ違う人たちがみんな俺に視線を集中しているのがわかる。


「元勇者の野郎。女を見せびらかして、嫌味かよ」


「元勇者さん、お幸せにね」


 とりあえず軽く会釈だけしておこう。

 俺は道行く人々に苦笑いであいさつをしながら、公園を出て街に出る。そして街中を歩く。


 街中でもやっていることはそうそう変わらない。数十メートル進むごとに声をかけられる。


「あんた、やっぱり人気者ね──」


「人気者って割に嫌味も言われたけどな……」



 半分くらいはあいさつだったり「久しぶりじゃん」くらいの言葉だったが、もう半分はルシフェルと手を握っていることへのひがみみたいなものだった。


 街を歩いていて気付いたが、俺が以前いたときよりも亜人の割合が多い気がする。以前はいたら珍しいくらいだったが今はそれなりに見かけるようになっている。


「それだけ地方から人が流入しているってことよ」


「裏を返せばそれだけ地方が不安定ってことよ」


「ってことはなおさら今度の仕事、力を入れなきゃな──」


 今度の仕事、パトラさんの婚約者は地方の貴族だと聞いている。何か地方の実情を知る手掛かりになるかもしれない。


「頑張りなさいよ、勇者さん、それを救うのがあなたの役目でしょ!!」


 パンッ!!


 そう言ってルシフェルは俺の背中をたたく。わかってるよ、やるにきまっているだろ!!



 空をよく見るとオレンジ色になっていて日が暮れ始めている。ローザとセフィラも待っている。そろそろ時間だ。


「そうだ、繁華街で何か夕食に買っていかない? ローザちゃんとセフィラちゃん、大喜びすると思うわ」


「そうだな」


 俺はふっと笑ってルシフェルのそういうとルシフェルは少し顔を赤く染める。そして俺の前を歩き手をひっぱり始めた。


「ほら、早く行きましょう!!」


 そう言って俺とルシフェルは繁華街のほうへ歩を進めていく。楽しくも、これからのことを語り合った1日は終わりを告げたのだった。

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