第57話 元勇者 パトラさんと再会へ
そして当日。
街の中心にあるとあるカフェ。
俺とパトラさんがまず約束の場所にたどり着く。
俺、いつもの冒険者の格好ではなくタキシード姿。ばっちりルシフェルとローザから着こなし方や、女の人とうまくコミュニケーションについて教わった。
後はそれを実践するだけだ。
俺が喫茶店に入ったとき、すでにパトラさんはいて、優雅にコーヒーを飲んでいるのが見えた。
挨拶をした後、注文を頼み適当な会話をする。最近あったことや、人間関係など。
ルシフェルからばっちり予習した結果が出ている。
「いい? デートでは沈黙しそうになったらいろいろ話しかけてあげなさい!!」
「……話って、何を話せばいいんだよ。会話とか、俺あまり得意じゃないし」
そうだ、俺はあまり会話が得意ではない、おまけに女の人と会話なんてほとんど経験したことがない。
あ~あ、ゲームみたいに、下に選択肢があればな……、デートする、とか世間話をする……とか。
「とにかく女の子とデートするうえで沈黙はNG!! 魂の底まで刻んでおきなさい!!」
その言葉通り俺は、話を途切れさせることがなく会話の話題を出していく。パトラさんもどこか嬉しそうだ。
チリンチリン──。
すると誰かが店の中に入ってくる。視線をそっちへ向けるとメイド服を着ていて、ネズミの耳をした女の子がそこにいた。
「彼女が 案内人です。エマ、久しぶりですね」
パトラさんが俺に耳打ちをすると、その女の子が机の前まで歩いてきて、お行儀よく頭を下げる。
「エマっていうっチュ、よろしくっチュ」
ネズミの耳を持った少女、亜人というやつだな。
「エマ、お久しぶりです。元気にしてましたか? 故郷は大丈夫ですか?」
「と、と、特に問題はないっチュ」
「──そうですか、とりあえず彼が来るまで待ちましょう」
そしてエマがコーヒーを頼む、2~3分ほどでコーヒーが出てくると──。
「ほら、砂糖がないとコーヒー飲めないでしょう。どうぞ」
そう言ってパトラはテーブルの上のティーカップのふたを開ける。中には角砂糖が入っていて、砂糖用のスプーンで角砂糖を5~6個取り出しエマの皿に置く。
その行動にエマはほっぺをぷくっと膨らませ反論。
「そ、そ、そんなことする必要ないッチュ! 失礼ッチュ! エマはもう大人ッチュ!! 砂糖なんていれなくてもコーヒー飲めるッチュ。ブラックコーヒー飲める大人ッチュ!!」
「そうですか、では飲んでみてください。飲めるのでしょう、ほら」
パトラさんは冷静な口調で言葉を返しコーヒーに向かって飲むのを促すように手を差し出す。
引けなくなったエマ、額から汗がだらだらと流れ引きつった表情に。
そしてパトラはため息をついた後エマをじっと見つめる。
「まったく、意地っ張りなあなたに呆れます。そもそもブラックコーヒーを飲めるかどうかでマウンティングをとるという行為が既に子供っぽいのです。私だってコーヒーに砂糖を入れます」
パトラがスプーンで角砂糖を一つコーヒーに入れ口にし始める。
それを見て涙目で顔を膨らませたままでいるエマ。とりあえず空気を良くしよう──。
「とりあえず砂糖入れなよ。そんなことで俺たちは子供扱いしないよ」
そしてその言葉を聞いたエマはそそくさと角砂糖を7~8個取り出す。そしてドバドバとコーヒーに入れかき混ぜる。
そして再びコーヒーを口に入れる。
「ふぅ~~。おいしぃ~~」
安堵に満ち溢れ、リラックスしたような表情。甘党だったのか彼女
「もう、変な意地を張って──。昔から変わっていないですね」
そう言ってパトラさんが微笑を浮かべながらコーヒーを飲み干す。
どうやらいつも二人はこういう本音で語ったり、遠慮することがない仲らしい。
そんな姿ををまじまじと見ていると──。
「まったく、仲がよさそうで何よりですな」
すると背後から聞いたことが無い声色の人物が現れる。誰かと思い俺は背後を振り向くと──。
「これはこれは「元勇者」様。こんなところで会えるなんて光栄ですな」
朱色を基調にキラキラ輝く宝石がちりばめられたマント。
上品で綺麗なそぶりや口調も礼儀作法も整っている印象だ。
貴族出身らしいが粗暴だったり態度が悪かったりという、風体はしていない。
一見の印象だが特に悪人だという印象はない。
「噂にたがわずお美しい──。さすがは俺の嫁。私にはもったいないくらいですな」
表向きは整ったハンサムな顔つきと、紳士的な態度でそぶりの良い礼儀正しいが。
その一方自信に満ちあふれた態度。ニヤリと薄く張り付いた笑みと目つき、それがどこか威圧的な雰囲気を漂わせているように感じた。
「ど、どうしてここに来たッチュ? パトラさんとは会うのは夕食の時って聞いたッチュ!!」
突然現れた人物にエマはあわて始めしどろもどろになる。そんな彼女に男は平然とした態度で言葉を返す。
「ああ、気にしなくていいよ。それは知っているし、決して間違えたわけではない」
「ただ、待ち切れなかったのだよ。俺の嫁候補であるパトラ様の姿を、自分の目で確かめてみたくなってね──」
ニヤリとした表情を浮かべ、視線をパトラさんの顔に向ける。
そして顔から足までの全身を、舐めまわすように視線を合わせると、彼は満足そうにうなづく。
「素晴らしい。噂では聞いていたがそれ以上の美しさだ。今までに見合い話や政治パーティーで美しい女性を目にした事はあったが、これほど美しい方は見たことが無い」
「褒めていただいて光栄です」
パトラさんが軽く頭を下げ、作り笑いで言葉を返す。
「そう言えばエマ。このお方は誰ですか?」
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