第41話 元勇者 ハイドの過去を知る

「そして実験の一つで様々な魔力を彼の注入してみた実験をしたのじゃが──」


「何をしたの?」


 ルシフェルの言葉に医者は平然と答える。


「人間の魔力をこのノルアに注入すると苦しみが治る反応を見せたのじゃ。そしてそれを手がかりに人間達の魔力を手当たり次第注入していたのじゃ」


 他人の魔力って……、流石にまずいだろ。その人物にだって負担はかかるはずだし──。


 一件聞くと無茶なやり方だと俺は考えた。──がそれ以外に手立てがない、だからこのような事をしているのだろう。

 するとルシフェルが一つの事実に気付き、問い返す。



「じゃああんた、苦しんでいる弟の病気を治すために、今まで人の魂を狩っていたっていうの?」



「御名答、そういうことだ。だが量がまだ足りない。もっと魂を狩らなければいけない」


 ローザとセフィラ、うつむいて黙りこくってしまう。


「なんだ、同情して俺を攻撃する気がなくなったのか? 責任取れとでもいうのか」


 彼の皮肉めいた言葉、俺は1回息をのんで反論。


「いいや、それとこれとは別だ。貴様のやっていることは間違っている。何としてでも止める」


 当然だ、いくら理由があったって無実の人達を苦しめるなんて許されるはずがない。 ましてや闇属性の魔術を使って街を恐怖に陥れるなんて間違っている。


「予想通りの答えだ。お前なら必ずその答えにたどり着くと分かっていた」



「何があったの? このノルアって子に──」


 ルシフェルが深刻そうな表情で聞くと──。


「それは俺達が生まれた土地に関係している」


 そしてハイドの説明が始まる。彼の生まれた場所は黒魔族の聖地のような場所で、母親が黒魔族に関する巫女のような仕事をしていた。


 しかし弟が生まれる直前から魔王軍とそれに対抗する戦いが激化。黒魔術に長けたとして知られるこの街も、戦火が増し激戦区となった。




「両親は、お前達との戦いで戦死。故郷は二度と黒魔術が復活することがないよう徹底的に破壊され、住民は子供を覗いて全て処刑された」


 そして問題になったのが──。


「俺達の黒魔術は、強大な力を持つ半面その術者には高い代償を支払わなければならない」


 確かにそうだ。強い魔術や、闇の力を使った魔術は確かに強大だ。だが──。


「その張本人の両親は死んだんだよな。問題はその代償……、何となく理解したよ」


「ああ、話が分かる勇者で助かる。貴様の想像する通りだ」


 そう、その代償として子孫の一人であるノルアに振りかかったのだ。


「その強い呪い。それによってノルアはずっと苦痛を浴び苦しんでいる。最近は意識すらほぼ失っている。悪化しているのじゃ」


「つまり、ハイドは弟のためにあんな真似をしているってことなのか?」


「その通りじゃ。唯一意識を取り戻したり、苦しみが和らいだそぶりを見せたのが人の魂のエネルギーを彼に注入した時。それを知ったとたんこやつは街に飛び出て魂狩りをはじめたという事じゃ」





 その背後からの声に俺達は背筋を凍らせ、声の方向に視線を送る。


 ハイドは俺達に背を向け始め言い放つ。


「まさか俺などに同情するとは。俺には貴様の思考回路は理解不能だ」


「そうだ、その医師の言う事はすべて真実だ。嘘偽りはない」


「貴様に同情されたところで、俺の考えが変わることはないがな──」



「ノルアはたった一人の家族だ、俺の生きがいだ。絶対に取り戻すと誓っている」


 その言葉から感じる、強い決意、信念。ゆるぎないものだということがよくわかる。

 俺が魔王軍と戦う時、絶対にこの世界を守ると強く心に誓って戦っていたが、あの時の俺に近い。


 ハイドがノルアの手を優しくそっと握ると再び出口へ向かっていく。


「俺はもうこの部屋を出る。面会時間は制限されていてもう時間だろう」


「ああ、これからこの子を見なければならんのじゃ。悪いがもう時間じゃ。退出してくれないかのう」


「そ、そうなんですか。失礼しました」


 俺達は慌てて部屋を出る。部屋を出て扉を閉めると再びハイドと目を合わせる。



「とりあえずあいつのステータスを確認しよう──」


 そして俺は解析魔法を使う。ハイドが見ている前で。どうせこいつほどの強さの奴は何度も解析されていていまさら自分のステータスが割れたところで何とも思わないだろう。




 ランク S

 HP 80

 AT 115

 DEF 120

 魔法攻撃 105

 魔法防御 115

 速度 70


 え~~と、Sランク??

 ああ、確かこいつもSランクだったな。


「あいにくだか俺は貴様と同じ種族値をしている。今までと同じ事をしていてもお前に勝ちは薄いだろう」


「フッ──、気づかいありがとう」


 確かにそうだ。今までの相手は俺より種族値が低い。

 多少相手が奇襲をしかけたり弱点を突こうとしてもごり押しをして勝つということが出来たが今回はそうもいかない。


 戦うとしたら手ごわい相手になる。そしてハイドが俺達を睨みつけてくる。


「俺は貴様たちと戦う趣味など無い──、だが戦うというのならば容赦はしない」


 流石にここで戦うわけにはいかない。だが彼を野放しになんて出来ない

 ハイドは俺達に背を向けこの場から去っていく。



「私達も帰りましょう。いつまでもここにいるわけにはいきません」


「ああ、そうだな」


 セフィラとセリカの言葉通り、俺達はホテルに帰っていく。複雑な感情を胸の中にとどめながら──。

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