第38話 元勇者 作戦を説明する

「あの……、私、やってみます」


 ローザは肩をすくめ、体は震えている。自分にはわかる、政治の世界に首を突っ込む事に震えているのが──。

 でも、勇気を出して話しているのも伝わってくる。


「陽君も、ルシフェルも戦っていて、セフィラも、私を守るために精一杯頑張ってる。でも私、何もできてない」


「ローザ様──、そんな、私は……」


 セフィラが胸に手を当て叫ぶ。しかしローザの心からの叫びがその声を遮った。


「私も力になりたい。守られるだけの私なんて嫌だ。私も戦いたい!!」


 勇気を出して叫ぶローザ、その光景に周囲は言葉を失ってしまう。俺もどうすればいいかわからなくなる。



 少しの間沈黙がこの場を占める。するとパトラがフッと微笑を浮かべ、ローザに視線を向ける。


「あなたの本心からの叫び、わかりました。共に人々のために頑張りましょう」


「──はい!!」


 握りこぶしをして笑顔でローザは返事をする。そう言えば初めてだな、ローザがあそこまで屈託のない笑顔を浮かべるのは。

 その光景、セフィラも幸せそうに笑みを浮かべた。


「確かそのハイドという人物は1人、小さい宙に浮く人物を後ろにつけているんでしたよね?」


「ああ、そうだ。だがいつもどこにいるかわからない。だから何とかして手掛かりを得て見つけ出そうと思っているんだ」


 しかしどう探せばいいのか、ハイドがどこにすんでいるかもわからないし──。


「そんな人、確か聞いたことがあります」


「えっ? みたことあるの?」


 その言葉に俺は驚く。するとパトラさんは窓の景色に視線を移しながら会話を進めていく。



「私はその人物の姿は知りません。しかし今いった特徴を持つ人物が歩いているという情報、私は聞いたことがあります」



「メイドの若い女性と世間話をしていた時です。体調が悪い時に病院に行った時だそうですが、若い男性、その後ろにはよくわからない子供が宙に浮いていて病院の奥に入っていった、というのを聞きました」


 病院? あいつ何か病気でもあったのか──。


「とりあえず他に当てもないし行ってみるか?」


「ええ──。100%そう、ではないけれど。確率は高いわ。他に行くあてもないし、行ってみるしかないわ」


「そうです!! いってみたほうがいいよ!」


 ローザも強気な口調で賛成に回る。それなら、答えは一つだろ。


「わかりました。ですが無理はしないでくださいね。自分の身を1番に考えてくださいね」


 盛り上がる俺達に心配したのかパトラさんが心配そうに言う。なんだかんだいってもいい人だな。


「とりあえず病院だな。あいつを見つけるまで見張るしかないな」



 その後も細かい打ち合わせなどをして1時間ほど。それが終わるとパトラは席を立ち始めた。


「では、また近いうちに会いに行きます」


 そう言って彼女はこの部屋を出る準備を始める。



「わかりました、私は用があるのでここでお別れですが、くれぐれも身を安全に──」


「そちらこそ、何かあったらすぐに私達を頼ってください。ぜひ力になりますから」




 そしてパトラさんはこの場を去り、馬車で別の場所に向かっていく。




 俺は窓の外から彼女が安全にこの場を去ったのを確認すると。部屋の中に視線を移す。



「とりあえず、病院にハイドがいるのはわかった。だからこれからやることは1つだ」


「その病院に張り込むと言うのか?」


「ああ、セリカの言葉通りだ」


 俺は周囲に視線を配りながら話す。

 少し地味だし奴が次に病院に行くのがいつかは分からない。下手をしたら何日も張り込まなきゃいけないかもしれない。でもそれしかない。



「地道な作業になりそうね──」



 ハイドは魔王軍の元幹部だけあってかなりの実力者。見つかる可能性だってある。


「もし見つかっても戦闘は避けること、見つかったら裏路地など人がいない所へ逃げない、人混みを絶えず歩く事、など戦える状況じゃない環境にいてほしい」



 とくにローザは危ない。敵に見つかっても1人での戦闘が不向き、下手をしたら返り討ちにあってしまうだろう。ここはローザ以外の5人で行った方がいいだろう。



「俺とセリカ、ルシフェルとセフィラで交代で見張りをする。いいかな?」




 するとローザがぷくっと顔を膨らませ、ぶりっこのポーズをして俺に迫ってきた。


「見ているだけなんてやだ!! 私だって役に立ちたい!!」


 その気持ちはわかる。けど強敵だ、襲われたら彼女の身まで守りきれる保証がない。

 するとルシフェルが庇うようにローザの前に出る。


「ここはローザの意思を尊重しましょう。街中ならハイドだって大きな真似は出来ないはずよ。任せてもいいと思うわ」


「私もついています。絶対にお嬢様に危害は加えさせません。だからお願いします!!」


 セフィラも頭を下げて俺にお願いしてくる。とはいってもなあ──。

 するとルシフェルが不満そうな表情で俺に詰め寄ってきて突っかかってくる。


「あなたがローザを心配しているのはよくわかるわ。けど彼女は部屋に飾ってある人形じゃないの。いっつも何もさせなかったら嫌になっちゃうわ」


「あなただってまわりが傷ついているのをみて、それで自分が何もできなくて、もどかしさとか感じたりしないの?」


 うっ──。


 ルシフェルが俺の胸を人差し指でつつきながら強気に言い放つ。

 その気迫に思わず2,3歩後ずさりしてしまう。


 考えてみればそうだ、周りが戦っているのに自分は見ているだけなんて彼女にとってはつらいだろう。


 正論ではあるけど──。仕方ない、これ以上俺達の中に亀裂を入れるわけにいかないもんな。


「わかった、2人にも協力してもらうよ」

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