第37話 元勇者 パトラさんに現状を伝える

 俺とルシフェル、セリカはホテルに帰った。そしてローザとセフィラに起きた事を打ち明ける。


「旧魔王軍の幹部──、そんな大物がいたんですか??」


 その言葉に驚愕するセフィラ。ローザも戸惑っているのが分かる。セリカが腕を組みながら囁く。



「本当だ。私も驚いた、そんな人物が関わっているとはな──」



 トントン──


 誰かが部屋のドアをノックする。そばにいた俺はすぐにドアを開ける。すると──。


「おはようございます」


 ホテルのフロントの兄さんだった、何の用か聞いてみる。どうやら俺達を訪ねている人が来たらしい。俺はすぐに通して大丈夫だと伝える。

 お兄さんはすぐにこの場を立ち去った。2~3分ほどすると誰かがドアをノックして部屋に入る。



 灰色の髪、腰までかかったロングヘア、上品そうなドレスと顔立ち。


「パトラさん──」


 そう、この国の三大貴族の一つ、ミルブレット家の貴族ミルブレット・パトラさんだ。

 あなただったのか──。


「おはようございます」


 そう言ってパトラは部屋のソファーに座る。

 それを見たローザが慌ててローザが紅茶を入れ始めた。セリカはその上品な姿に目を丸くする、俺が彼女の事を伝えると──。


「そんな身分が高い人物なのか。よろしく──」


「フフ……、こちらもよろしくお願いいたします」


 俺とパちらさんは挨拶をして握手をする。特にもめ事もなくてよかった。


「パトラさん、今お茶を出しますね」



 ローザは入れた紅茶をパトラに出す。

 パトラは一言お礼を言って上品そうなそぶりで一口飲む。そしてマグカップを机に置くと俺の方を向き話しかけてきた。



「スラム街の調査の件、どうなっていますか? 本日はそれについてどうなっているか伺いに来ました」


「ああ、そのことですか」


 俺は真剣な目つきになり起きた事、そこにすんでいる人達の境遇について話した。


「なるほど、内乱が続く地方から難民達が多数流入している。彼らはまともに教育を受けていないうえに貧困にあえいでいる。そのおかげで犯罪をする事に心理的抵抗がない」



「そして一端は彼らと打ち明ける事が出来たのですが……」


「そんな時にこの事件の大元「ハイド」の登場で犯人たちは魂を吸収されてしまった」


 そう、セリカの言う通りだ。



 正直思い出すだけで気が重くなる。腰に手を当て、そっぽを向きながらその後の事を俺は話した。

 ハイドの事について、そして少年たちの魂を奪った後戦おうとしたが逃げられてしまった事を。


「旧魔王軍の幹部? それは興味深いです」


 パトラは前のめりになり、俺の方に視線を送り始めた。


「とりあえず、この問題は議会で取り上げます。私にお任せください」


「ありがとう、よろしく頼むよ」


 ぜひ取り組んでほしい、この問題は俺一人では限界がある。


 彼らのように祖国から逃げて貧しい想いをしている人達は他にもいる。

 放っておけばああいった闇組織がはびこりやすいという事もある。だから放っておくわけにはいかない。


 救いの手を向け、悪の組織と手を切り離さないとやがて国全体に悪影響が出てしまうのだ。


「でもあなた、ミルブレット家や政治家たちからあまりよく思われていないでしょう。」


 ルシフェルがジト目で質問する、確かにそうだ。だから先日は罠にかけられ魔獣たちに襲われていた。

 そんな彼女が意見したところで他の貴族や王族たちが問題にそもそも関心が無い、蚊帳の外なのだから──。


 しかしそう言われてもパトラは全く動じない。

 優雅に紅茶を少し飲むと表情を変えず、言葉を返してきた。


「確かに私を快く思わない人がいる、貧困にあえいでいる人達に関心が無い。事実です。しかし魔王軍となると話は別です。自分たちに火の粉が降りかかると分かればおのずと何とかしようとするでしょう」


「なるほど、切り口を変えると言う事ですか──」


 つまり魔王軍がかかわっている事を強くアピールする事だな。これなら政府も動いてくれそうだ。


「もう一つ、ローザ様にお話しがあるのですが──」


 今度はローザに視線を向ける。ローザはぴくんと反応するとフリーズしてしまう。


「な、何でしょうか……」



「同盟を組んでほしいのです。あなたに政治の世界に入って一緒に活動がしたいのです」


 その言葉にローザは目をキョロキョロとさせ困惑する。彼女は元々優しすぎて内部の政争争いには向かない。だから支持者から見放されて家から追い出されてしまったんだっけ。


「でも、わたし──」


「そうです、ローザ様はそう言った事は──」


 セフィラは2人の間に入ってパトラに叫ぶ。ローザはちょこんと縮こまりうつむいてしまう。



「大丈夫です。ローザ様の性格や生い立ちは知っています。しかしそれを考慮してのお願いなのです」



「王族から見れば貴族の一人。発言力が全くないわけではありません。私一人では限界があります。共闘する戦友が欲しいのです」


 パトラはローザに向かって目線を合わせ、優しい口調で言う。ローザはうつむき黙りこくったまま──。


「正直望みが薄いわ、あきらめたら??」


「俺もそう思います。ちょっと無謀かと──」


 その言葉にローザは言葉を失ってしまう。そりゃそうだ、彼女の性格じゃ政争争いなんて出来ない。魑魅魍魎な政治の世界なんて向いていない。


 パトラは席を移しローザの隣にちょこんと座る。そして語りかけるような口調で話す。


「どんな冒険者でも、つらい想いをし、修業し強くなる事は出来ます。でも冒険者に血筋をつけることは出来ないのです」


「あなたの血筋は一種の才能と同じです。それを活かして人々のために戦うこと、それはルシフェルさんでも陽平さんでも出来ません。あなたにしかできないことなのです」


 その言葉を聞いてローザの表情が少しだけ変わる、きりっとした表情。そしてコクリと何かを決めたようなそぶり……。まさかローザ──。


「あの……、私、やってみます」


 ローザは肩をすくめ、体は震えている。自分にはわかる、政治の世界に首を突っ込む事に震えているのが──。

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