第12話 元勇者 ジャンブルで一泊
「えっ?? い、い、いや別にそんなこと考えてないよ」
慌てて俺は手をブンブンと振り否定。だって仮にもリーダーなんだからそんな事を考えているって分かったら失礼だし、どんな扱いをされるかわからないもん。
「安心して。多分ここにいるみんな全員そう思っているから」
ニヤリとした表情でその冒険者が耳打ちする。
統率力があるが素のステータスは低い。
通称見かけ倒しの王。周りの冒険者たちは口にはしないがそう思っているらしい。
「お~~い、冒険者達集まったか?? 出発するぞ!!」
威勢のいい掛け声。その声を彼が叫んだとたん、周囲の冒険者たちが一斉に集まってくる。その姿を見るに、彼の信用はそれなりにあるようだ。
「みんな──」
そして……。
「まったく、なんで俺様がこんな事をさせられなきゃならんのだ──」
不満たらたらの表情で歯ぎしりをしている人物が1名。
「おい、まだ出発しないのかよ!! 時間だぞ!!」
「あーキーロフさん、すいませんね。今手配した馬車が到着したんでもうすぐで出発です」
今回、冒険者達と同行する事になったギルドマスターのキーロフだ。不機嫌な彼にポルポさんが必死でなだめる。
(というか彼も護衛しなきゃいけないんだろ? 結構面倒だな──)
「ほら、馬車が来たわ。乗りましょう!!」
ルシフェルが俺に話しかけると、後方には何十台の馬車。あれで移動するのか──。
そして馬車に乗る。1台4人乗りで俺の隣にルシフェル、後ろにローザとセフィラが乗る。
10分ほどすると他の冒険者達も馬車に乗り終えたようで出発。かなり久しぶりのクエスト、それに大人数。何も無ければいいが──。
一応心配はしておこう。
馬車は街を抜け郊外の草原地帯へ、草原地帯を抜けると木が生い茂るジャングルへと進む。
「いい眺めね陽君。こういう多彩な風景。これが見れるのがこの世界のいいところね──」
「まあな、自然豊かな光景は俺も好きだ」
ルシフェルは微笑を浮かべながら馬車から見える風景に夢中になっている。確かに俺もこんな自然豊かな風景は好きだ。
「お前の所は赤い空にマグマの海、漆黒の岩石地帯に雷鳴の嵐だもんな」
「……うるさい」
顔をぷくっと膨らませるルシフェル。
ルシフェルのいた魔王城はそんな感じだった。だからこんな風景がとても新鮮なんだろう。
「スースー」
ローザは寝息を立てながら寝ている。きっと旅の疲れもあるのだろう。セフィラは警戒したそぶりを見せ周囲を見ていた。
そして馬車は時折休憩をはさみながら進み続け、初日の目的地に着く。
空を見ると夕焼け空、もう日も暮れるころ。
「ここが初日の泊まるところですぜ」
ポルポさんが指差す先。
それはジャングルの中にポツンとあるそこそこ大きな屋敷。広いジャングルでは馬車の速度では1日では抜けられず、何日もかけて進むことになる。
しかしジャングルはどう猛な肉食獣がいたり、魔王軍と戦っていた時は魔獣たちがうようよと隠れる住処になっていた。
そこで冒険者や商人など、ジャングルを通行する者が多い人達が資金を出し合ってジャングルの中に宿泊施設を作ったのだ。
「──こんな薄汚れた小屋に泊まろうってのかい」
「まあ、それしか方法が無いんですよ。なに、私たちが同じ部屋なんで身の安全だけは確保しますから──」
露骨に不機嫌な表情をしているキーロフをなだめるポルポさん。
ポルポさん達けん引役がキーロフと相部屋になると説明。ちなみに馬車も一緒だった。
大変そうなのがよくわかる。
そして俺達は屋敷に入っていく。
部屋は4人部屋や個人部屋、2人部屋など。
俺はローザの強い願いもあってルシフェル、セフィラ、ローザと一緒の部屋になる。
しかしあのローザの4人部屋に対する執着心は何なんだ?
それは屋敷の前で部屋割について話している時──。
「ローザ、ちょっと部屋割りについて聞きたいんだけれどやっぱり1人の部屋がいい?」
俺は優しくローザに聞く、女の子ならプライバシーの事もあり1人部屋の方がいいと考えたからだ。しかしローザは──。
「とんでもない!!」
珍しくローザはプンスカと軽く怒り始める。う~~ん、一人でいたところを狙われる危険があるってことか? それなら──。
「じゃあセフィラとツイン??」
「NO!!」
するとローザがにっこりと嬉しそうな表情になり答える。
「4人部屋!! 陽君とルシフェルとセフィラで4人がいい!!」
4人部屋? つまり俺と一緒?? 女の子だぞ、冗談だろ??
「本当に俺と一緒の部屋でいいの? 女の子同士の方が──」
「やだ、陽君と一緒。4人部屋!!」
「別に遠慮しなくても──」
「違うの。4人部屋がいいの!!」
まさかの回答に困惑する俺。みんな一緒というのが彼女のこだわりなのだろうか。
そんなローザの強い要望もあり、4人部屋で泊まる事となったのだ。
部屋につくと荷物を下ろし食事を取る。
「「「「いただきます」」」」
携帯していた保存食の干し肉とドライフルーツを口に入れる。以前も遠征中ではよく食べていたがおいしい。
「私のこれ結構好物なのよね」
「フルーツおいしー」
ルシフェルとローザもその味にとても喜んでいる。確かに懐かしの味という感じがする。苦労を分かち合った仲間たちとよく食べたな……。
あっという間に食事が終了、長旅の疲れ、明日も移動が続くと言う事もありすぐに寝ようと就寝の準備を始める。
そして4人がベッドにつこうとしたその時──。
バタン──。
誰かが俺達の部屋を開ける。
そう言えばこの部屋鍵が無いんだった……、不用心だな──。
すると出てきたのは男の斧を持った冒険者だった。
「元勇者さん、大変です。この屋敷を取り囲むように魔獣が──」
「な、何だって?? すぐ行く!」
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