承/のじゃ姫の調査
太陽が天頂に差し掛かっている午後、フェルシア達は街中で情報収集に励んでいた。
「ムグムグ……でどうなんじゃ」
「ああ、何でもフラフラーっと足取りが覚束ない様子で歩いて行くんだとよ」
「……アムアム。成る程のう。あっ、これを三つ追加で……その後は…ムグムグ…どうなるんじゃ?」
「まいどっ! そのまま人気のない場所に行ってよ、パッと煙の様に消えるんだとよ」
「モゴモゴ……成る程のう」
「いや、喰うか聴くかどっちかにしたらどうなんです?」
ツッコミまいと思っていたが、ついついツッコンでしまう。
「…うむ。そうじゃな……ムグムグ」
「食べるんかい!」
「いや~美味しいですよ~」
「いや、美味いのは分かるけどさ……目的と手段が逆転してないか?」
ソーヤの口からため息が漏れる。
「モゴモゴ…モグモグ……」
「いや、喋ってよ。何か一人で言っててバカみたいじゃん」
「ソーヤさん~。口に物が入ってる時は~喋っちゃダメなんですよ~」
「正論ありがとう。って、そうじゃなくて……ハァ。なら俺は別口で情報収集しますね」
頭をガリガリと掻きながらソーヤは別行動を取る事を宣言する。
「うむ……ムグムグ……頼んだ……」
「はいはい。俺は冒険者組合に行ってきますから」
ソーヤは未だに食べ続けるフェルシアの相手をミューラに任せ、冒険者組合へと向かった。
道すがら情報がないか尋ねながら進むも、特にこれと言った情報も掴めないまま、ソーヤは冒険者組合に辿り着いた。
扉を開けて中に入ると、昼間だと言うのにもう酒を飲んでいる冒険者達の姿が目に入った。
ソーヤはぐるりと周囲を見回し、目的の人物を見つけて近寄っていく。
「よう。今日は依頼を受けてないのか?」
「おう、ソーヤか。昨夜帰りが遅かったからな、今日は休みだ」
くすんだ赤髪の剣士風の男……バッズがそう言う。
テーブルには他にも三人座っている。
ソーヤが偶に混ぜて貰うパーティのメンバー達だ。
バッズ、ハンナ、ルキニン、ノラの四人でパーティを組んでいるのだ。
「ソーヤタソはどうしたの?」
「紛らわしいからやめてくれ」
「で、どうしたの?」
ゴシック風の衣装を纏った幼女……ハンナが不思議そうに声を掛けてくる。
「ああ、いつもの姫さんの病気だよ。で、今回は突然消える娘の話題に食い付いた訳だ」
「む、噂の話だな。聞いた事があるな」
全身鎧を纏った戦う神官ルキニンがそう言う。
「え、えっと…花屋のハナさんも……いなくなっちゃった…らしいです」
巨大な宝石の付いた杖を持つ魔導師のノラが巨乳を揺らしながら語る。
「おっ、その話もう少し詳しく、プリーズ」
「また訳の分からん言葉を使いやがって……まあいい。ハナが花屋から消えたのは昨日の夕方との事だ、ハイビスカスは点いて欲しいけどな」
「ハナハナの話はいい」
バッズがノラの話を継ぐとハンナも話に乗って来る。
「そうそう。聞いた話だと何かお菓子の匂いに釣られてお菓子そうに店から出て行ったらしいよ」
「お菓子? ってか可笑しそうだよな」
「あくまで噂だ。事実かどうかは定かじゃない。が、数人の目撃者からの証言でな」
「何でも「美味しそう」とか言いながらナンプラーっと歩いてたらしいよ」
「いや、フラフラーっとだろ」
「……花屋の角を曲がった……行き止まりの方で…消えたらしい…です」
それぞれの話を統合するとだ、お菓子の匂いに釣られて「美味しそう」と言いながら、フラフラーっと行き止まりの方へ向かって行って、そのまま帰ってこなかったと言う事らしい。
「消えた瞬間とかは誰も見てないのか?」
「知らん」
「は?」
バッズの言葉に思わず聞き返してしまう。
「だから知らん。あくまで噂だと言ったろ」
「何処の誰だか知らないけれどってやつ」
「いや、古くてネタが分かる人どれだけいるか」
「まあそんな話を聞いたとか、そんな感じだね」
「でも目撃者がいたんだろ?」
「…それも……らしいと言う噂…です」
あくまでも噂で何が真実かも分からない状況らしい。
「後、噂なら怪しい魔導師も見たと言う噂も聞いたぞ」
ルキニンが追加情報をくれる。
だがこれも確証はなく、風貌もよく分からないそうだ。
「ド〇ツ、ド〇ツ、ド〇ツド〇ツ、ジ〇ーマンって叫んでたらしい」
「いや、それだけはない」
「名前も叫んでたらしい。ロキソって人名だ。略してロキソ人だ」
「いや、ツッコまんぞ。で、結局どれも確証はない噂だけなんだな」
「でも、ハナちゃんが消えたのは間違いないよ」
「そっか……なら花屋にでも行ってみるよ」
溜息を吐きながらそう言う。
「……お前も大変だな。姫さんの病気に付き合って」
「全くだよ。まあ今に始まった事じゃないし、取り敢えず逆らえないからなぁ」
逆らうと爆裂魔法がもれなくプレゼントされるとあれば付き合うほかあるまい。
「まあ、がんばれや」
「ああ、情報サンキューな。俺はもう行くよ」
「で、合流したはいいけど……これはどういう状況なんだ?」
両手いっぱいに食べ物を抱え込んだ二人の姿に思わず白い眼を向ける。
「相手も商売だからな、買ってやるのが筋だと思っての」
「何処の食い倒れツアーだよ!」
目を逸らしながら言うフェルシアに呆れて溜息を漏らす。
「で、本心は?」
「美味そうだったので食べてみたかったのじゃ。反省はしてるけど後悔はしていない」
「商品を買ったら~お話も一杯してくれたから~」
「ついつい買ってしまったと」
「そうなんです~」
「で、持ち物に甘い物が多いのは?」
「美女は甘い香りに弱いのじゃ」
「いや、美女関係ないし!」
「ワラワ達が美女ではないと?」
「いや、そうじゃなくてですね……ハァ。取り敢えず情報を共有しましょうか」
「ふん。まぁ今は見逃してやるのじゃ」
ソーヤはガシガシと頭を掻くと、自分が仕入れた情報とフェルシア達が仕入れた情報の整合性をチェックする。
どうやらハナの件は別として魔導師の噂は色々と仕入れられた様だ。
どうやら魔導師の姿を目撃したとされる場所は娘が消えたポイントに近い様だ。
「どうやらその魔導師が関与してそうですね」
「そうじゃ、間違いない。ワラワの感が告げておる、犯人は魔導師の男…ロキソじゃ! ばっちゃんの名に懸けて事実はいつも一つ!」
「……もうツッコミませんよ。それよりそのロキソって名前も正しいとは限らないし、そいつがやったって確証が無いじゃないですか?」
「ぬっふっふっ。ワラワに秘策ありじゃ!」
フェルシアの視線がミューラを捉える。
「ふぁ?」
視線を向けられたミューラは焼いたお菓子と思われる物を口に頬張った状態で思わず返事をする。
「ワラワの予想が正しければ食いつくはずじゃ」
「あっ……凄くイヤな予感がするんですけど……」
「作戦は『生餌でおびき寄せ、ウホッいい男作戦』じゃ!」
「いや、どんな作戦ですか!」
思いきりツッコミを入れる。
「簡単じゃ。ミューラがフラフラと歩いていると釣られてウホッといい男のロキソが姿を見せる。そこを捕まえるのじゃ!」
「いやいや、ちょっと待って。まず前提がおかしい」
「何がじゃ?」
「第一にそのロキソってほんとに良い男なんですか? ウホッだと男色ですよ。それにどうやって捕まえる女性を選別しているか分かってないのに、ミューラを囮にすれば捕まるとほんとに思ってます?」
「大丈夫じゃ!」
「その無駄な自信の根拠は?」
「ワラワの女子の直感が間違いないと轟き叫んでいるのじゃ!」
「……」
「それにあのたわわに実った果実じゃ。惹かれん男などおらんじゃろ」
ミューラが視線を感じて慌てて胸を隠そうとするが、両手に持った食べ物の為上手く隠せていない。それどころか胸を強調させる結果となった。
「うっ……否定したいけど否定できない自分がいるぅぅ」
「ちなみにワラワは美乳じゃ。見せも揉ませもしゃぶらせもせんが決して小さい訳ではない。ぷにっとしてもにゅっとしておる」
「うん。それ言い方が卑猥だからヤメましょう」
「チッチチッチ、ボインボイン繋がりじゃ」
等とくだらない話をしつつ、フェルシア発案の『生餌でおびき寄せ、ウホッいい男作戦』は実施されるのだった。
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