第14話 大砲(ど直球)

 下校途中、未咲にこんなことを訊かれた。


 未咲「玲香ちゃん、わたしのことどう思ってる?」

 玲香「えっ? そうね……」


 ひと呼吸おいて、玲香ちゃんが言った。


 玲香「大砲で打っても死ななさそうよね」

 未咲「あー、やっぱりわたしってそんな感じなんだー……」


 気の抜けた顔になるわたし。


 未咲「わたし、近頃やりたいなーって思ってることがあって」

 玲香「?」

 未咲「ライブでダイブとかしてみたいんだよねー。なんかたのしそう」


 ……だめだ、動機がすごくアホっぽい。


 玲香「あー、それはダメ」

 未咲「なんで?! 玲香ちゃんはしたいって思ったことないの?」

 玲香「そりゃ、最初のころは少しくらいあったけど……危険だし、やめておいたほうがいいわよ」

 未咲「そっかぁ……残念……」


 がっくりと肩を落とす未咲。


 玲香「どうしてもって言うなら、を待つしかないわね……おすすめはしないけど」


 深くため息をつく玲香ちゃん。嫌なことでも思い出してるのかも……?


 未咲「話、変えていいかな?」

 玲香「ご勝手に。何かしら?」

 未咲「あのね、この前買った本に書いてあったんだけど、

    わたしたち人類がここまで繁栄できたのは、いまこうやって話してることばのおかげらしくてね……」


 次にくることばをなんとなく予想しながら、未咲が話すのを待った。 


 未咲「たとえばわたしが玲香ちゃんに『かわいい。すき。大すき』って言ったり、『いまね、すっごくおしっこしたいんだ』ってそれとなく玲香ちゃんに示したりするのは、玲香ちゃんのことを深く考えてるっていうよりはね、これはもうきっと昔から人ってこんなふうに、誰かや何か、言ってみれば世界のことだって、そのぜんぶをことばに変換しながら思い考え続けてきて、その結果なんだって」


 未咲がめずらしく明晰だ。どこか頭でも打ったのだろうか。

 ただそうなると、途中なにかヘンな単語が聞こえてきた気がするけど、気のせいだと思いたい。


 未咲「だから玲香ちゃん、わたしにキス……」

 玲香「ちょっと待って。どうしてそうなるのかしら」


 ちょっとだけ目眩がした。むしろこれでいけると思ったのだろうか、未咲は……。


 未咲「話もどすね」

 玲香「もどすのね」

 未咲「大規模なライブで大砲どっかーんってやったらすっっっごくたのしそう!」

 玲香「誰かやってくれるといいわね」


 さらっといなすわたしだった。

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