第9話 夏男は馬鹿だね

 プール行った後お盆までは数日間があったが、香織んちのお母さん方は初盆はつぼんらしく、行きたくないと言っていた香織も有無を言わさずお盆ウィークが始まった途端、お母さんのご実家に連行されていった。お手伝い頑張って!



 俺は相変わらず家の畑の夏野菜を収穫し、袋詰を手伝っていた。

 今までと違うことといえば、恋春の夏休みの課題を手伝っていることだろうか。英語や数学といった中学校から始まる教科はまだまだ慣れないようだ。恋春とはあれ以来変なわだかまりみたいのものは一切なくなり、それどころかあいつはやたらと俺に甘えてくるようになっている。ベタベタくっついてくるのは若干鬱陶しいが、それもまたかわいいものだと思えば許容できるよね。


 ピコン


 LINEの通知だ。香織からだと思ったけど違った。グループ名【野郎ども】へのメッセージだった。

【野郎ども】のメンバーは、俺、榊、与一と郁登の四人。要するにいつもの仲良し四人組の野郎どもということ。

『なあ、みんな暇?』

 という与一のメッセージに

『暇』

 俺を含め三人が返信する。

『ファミレスでも行くべ』

『おk』『OK』『りょ』


 よくたむろってる学校近くのファミレスに集合。一四時過ぎということもあり、客は俺達の他には子連れのママたちと俺らのような学生が数組いるだけ。ホール係のバイトも暇そうだった。

 いつものようにドリンクバーとポテト盛り合わせを注文する。


「なあ、なんかおもしろいことあったか?」

「なんだそれ。そんな抽象的な質問してアホなのか?」

 与一の質問に榊が突っ込む。

「そんな質問しかできないほど何もイベントが起きないんだよ」

 項垂こうべたれる与一。


「郁登はいいよなぁ彼女とひと夏のアヴァンチュール楽しんでいるんだろ?」

「今日日アヴァンチュールなんて聞かないよ? それに俺と優美はひと夏で終わるつもり無いからね」

 榊がよくわからないことを言い、それに郁登は律儀に応えているし。


 いつも通りくだらない話をうだうだと話していると思い出したように郁登が俺に問いただす。

「悠。例の彼女、香織さんだっけ? あの後どうなんだよ、なんか進展あったのか?」

「いや。特になんにもないけど」

 恋人同士になれたわけでもないしな。でも、ちょっとは仲良し加減が増したかな?

「おい、夏休み入ってから二週間は経っているんだぜ。どこか遊びに誘ったりしたらどうなのさ」

「そうそう。奥手過ぎても嫌われるぜ」

 与一と榊も乗ってくる。こういうときの二人はほんとウザい。


「ん~、夏休み始まった直後の七月中は一応毎日会ってたかな。夏の課題一緒に片付けたし。あと花火大会は一緒に行った。それと一昨日はプール行ったな。それくらいだよ。プールは俺の妹も一緒だったし」

 あれ? 思い返すと結構会っているな。でも、ほんとそれくらいだしなぁ~

「「「………………」」」

 郁登は生暖かいジト目を送ってきているし、与一と榊は歯ぎしりして血涙を流しているぞ。どうした?

「悠ってそういうやつだよな。鋭いんだか鈍いんだか。大胆なんだか奥手なのかよくわからないんだよね」

 はあ、とため息交じりで郁登に言われたけど何のことだかわからないよ。聞き直しても「なんでもない」って言うだけだしさ。



「なあ、悠。夏の課題終わったんだろ? 数学だけでいいから見せてよ。ただとは言わないからさ」

「あ、俺も頼む。英語だけでいい」

 だいたいこういう事言いだすのは与一と榊なんだが、まあ今回もそう。


「ほほう、与一くん。ただとは言わないとはどういうことかね? 事と場合によっては見せてあげないくもないが?」

「ククク。悠様もお人が悪い。それでは愚生ぐせい秘蔵大人のDVDコレクションから二枚いや三枚を進呈いたしましょう」

 与一、誰だよおまえは?

「取引成立だな」

 俺と与一は固い握手を交わした。俺も男の子なんです。むっちゃそういうの興味ありますもの。


「榊透くん。君はどうするのかね?」

 と、ノリを変えずに振ってみる。

「あ~ソッチ系がいいのかぁ。じゃあ、うちの姉ちゃんのパンツでどうだ? 何なら

 洗濯前のを……ぶべらっ」

 榊は全部を言い終わる前に隣りに座っていた郁登に口を押さえられ殴られていた。

 うん、ほんと郁登はいい仕事した。公共の場でそういうのは止めていただきたい。公共の場で無くてもお断りだけど。


 榊と郁登がわちゃわちゃやっているのを呆れて俺は眺めていたけど、与一は静かになにか考えているような表情をしていた。

「榊。その、おまえの姉ちゃんのソレ。おれに譲ってくれないか?」

「「「えっ?」」」

「代わりにおれの秘蔵大人のDVDを…………あれ? ど、どうした?」

「なあ、与一よぉ。冗談だってば。さすがに姉ちゃんのだって下着は盗ってこないし。それにあの姉ちゃんだぜ。あんなののどこがいいんだよ」

 与一は顔真っ赤にして口をパクパクしていて声が出ない様子。とてもじゃないが茶化す雰囲気でないので静かに見守ったよ。

「……だってさ、さ、榊の姉さんすごくかわいいじゃん。おれのタイプど真ん中なんだよ」

「……マジか。でも、あれ、彼氏いるぜ」

「はうっ……轟沈ごうちん

 なんだか二人して沈痛ちんつう面持おももちになってしまったので、俺と郁登は取り敢えず手を合わせて拝んでおいた。


 この後恋春にも話が及んだけど一切合切何も教えてやらなかった。こんな奴らに可愛い妹を差し出すなんてありえないんだぞ。

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