第5話 恋する春?

『悠くんは夏休みとかバイトしないの?』

『しない。と云うかしていられないな。家の手伝いしないといけないんだ』

 昨日の花火大会のあとは特に何もなく帰宅となり、今はひと仕事終えて自分のベッド上で香織とLINEしている。


 七月中は夏休みの課題をやるために免除されていたが、課題が終わった今は、思いっきりこき使われている。誰に? 家族にだよ。

 うちは兼業農家で田んぼと畑を複数所有しているのだが、遊ばせているわけではない。当然、八月の今も野菜は育っていっているし、収穫もしなければならない。田んぼの草取りだって怠けるわけにはいかない。

 しかも、うちはだ。つまりは、父は会社での勤務があり、母もパートに出ているので、日々の農作業を行っているのは祖父と祖母に任されるということになる。要するに人手が足りない。


『じゃ、あんまり遊んでいられないんだぁざんね~ん』

 【豚が泣いている】スタンプ なんで豚?

『でもプールは行くからな。約束したし。いつがいい?』

『ありがとー、ちゃんと覚えていたんだね』

 【偉そうなカエル】のスタンプ カエル?

『まあな。でも、お盆とその前後は除いてくれな。うちお盆中来客多いんだよ』

『悠くんが対応するの?』

『しないよ。うちの両親とジジババが客の相手するから、その間畑とか全任せさせられる』

 【oh…】スタンプ なんか悲しまれた。

『でも、この期間だけはも手伝いに来るからそれほど大変じゃないから平気なんだよ』

 【ガバッと驚いて振り返る男のGIF】スタンプ なんだよこれ。

『なんですとー?????? 今何を言ったぁぁ??? もう一度言ってみろぉぉ』

 なんか香織が急に興奮しだした? もう一度言えって? 読み返せよ。直ぐ上だぞ。

『それほど大変じゃないから平気』

『……チガウソコジャナイ』

 なぜカタコト?



 ピコピコピコ♪ピコピコピコ♪

 香織から音声通話コール。


「もしもs――」

『悠くん、妹いるのぉ? どーして教えてくれなかったの???』

 香織は被せて詰問してくる。え? 言わなきゃいけないの家族構成とか。さっきジジババのことはスルーしてたじゃん?


「まあ別にわざわざ言うこともないかな、と」

『なに言ってるの? 大事だよ。そこ大事。テストに出るから』

 もう何を言っているのかわからん。先ずは落ち着くまで宥めよう。


 なんでも、香織は一人っ子で妹がずっと欲しくて仕方なかったということ。そこに俺に妹がいるって分かったもんだから興奮してしまったらしい。俺の妹だよ。関係ないじゃない?


『悠くんは分かってない。だよ。これがテンション上がらないわけないじゃない!』

 なんだか香織の言うニュアンス? イントネーション? がちょっと違う気がするが【】は妹だろ?


『ねえ義妹さんの名前は? 年はいくつなの? かわいい?』

 妹の名前は清水恋春しみずこはる、年は一三歳で中学一年生。顔は俺から見ても可愛い方だと思う。


『こはるちゃんかぁ、ぐへへ。……そうだ今度のプール一緒に行こうって誘おうよ。悠くんも両手に花だよ』

 なんか変な笑い声が聞こえたような。両手に花って、香織は確かに花だけど、恋春は棒きれだぞ?そもそも恋春が行くって言うかな、最近すごく反抗的になっt……

 

――ゾクッ


「お兄ちゃん。……誰が棒きれなの?」

 へ? 声に出てた? 出てないよな。なに恋春はエスパーナの?


「イヤ、ナンデモナイヨ」

 それより恋春はなんの用事?普段俺の部屋なんて来ないのに。


「ばあちゃんがお昼ごはんだって。お兄ちゃん、呼んでるのに来ないから呼びにこさせられた」

 早くしてよね、とひとこと言って恋春は居なくなった。


『なにぃ? 今の声、こはるちゃんなのぉ? まだ居るの????』

 通話を切る。うるさい香織のことは取り敢えずほっておいて昼飯にする。


 ものすごい勢いでTLタイムラインにメッセージが並んでいくけど、無視しといた。

 香織はちょっと変わり者のような気がするけど、今日のはかなりだったな。まあ、平常いつものことといえば平常いつもどおりか。



 昼飯は素麺と冷凍チンの唐揚げだった。どうにかならないのかね、この組み合わせ。まあ全部平らげたけどさ。


 食休みのあと祖父母は今朝収穫してきた野菜を道の駅に卸しに行った。


 居間には、俺と恋春。

「なあ、恋春。今度俺の友達と一緒にプール行かないか?誘われたんだけど」

 一応【誘われた】を強調しておく。


「誰、友達って? さっきお兄ちゃんが電話していたひと?」

「そう。嫌ならいいよ」

「女のひとだったでしょ? お兄ちゃんの彼女?」

 相手が香織おんなだってなんで分かるの!やっぱりエスパー!?


「彼女ではない、な」

「ふ~ん。違うんだ。それしては親しげに話していたような気がするんだけどなぁ」

 恋春は目を細めてジトッと視線を送ってくる。


「フツーだよ、ふつう。友達なんてそんなもんだろ?」

 おっといけない。ここで動揺しては兄としての威厳が崩れる。元々あればの話だが。


「いいよ。行ってあげる」

 はい、恋春も一緒にプールに行くことが決まりました。


「じゃ、お兄ちゃん。出かける用意して」

「なんで?」

「だって、私。水着持ってないもの。一緒に今から買いに行くわよ」


 【oh…】何が悲しくて妹の水着を買うのに付き合わなきゃいけないんだ。

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