大人しそうなメガネっ娘の彼女は思いの外グイグイ来る

403μぐらむ

第1話 再会の一枚

「悠くんのことは、には思ってないかな? なんかゴメンね」

 俺、清水悠しみずゆうの告白に対し、彼女真島香織ましまかおりははっきりと断りの言葉を言う。

「そ、そうだよね。コッチこそごめん、迷惑かけた」

 そう返すのがやっとで、俺は彼女に背を向け全力で走り去るのであった。

 

「うわあああああっ」

 バンッ!!

「うっるさいっ、今何時だと思ってるんだい!」

 母が俺の部屋のドアを開けて怒鳴ってきたことで目が覚めた。

「あ、ああ。すまん。……夢か」

「何度も何度もいい加減しなさいよっ」

 母は静かに寝ろと最後に言い自室に戻っていった。

 七月に入って五回め、いや今日ので六回めになるのかなこの夢を見るのは。その度に叫び声上げているみたいで毎度母に怒鳴られていた。

 香織に告白しようと決意する度にこの夢を見てしまい、心折れて告白できず仕舞いになっているんだよな。情けないけど今の香織との関係がなくなるのコワイんだよ。



 香織とは中学校が一緒だったが、彼女のことは顔と名前はなんとなく知っている程度でこれといって交流がなかったと思う。中学卒業後は、俺は市立の男子高校に、香織は同じく市立の女子高校に進学した。本来これで二人の関係は特に何もなく終わっていたはずなのだけど何の因果か、今やほぼ毎日顔を会わす関係になっていた。



 ――五月の連休最終日も既に夕方。うちは兼業の農家で、今日一日俺は家の手伝い田植えをしていた。もう両親は帰宅してしまって、俺は残された機械で植えられない隅の方を手で植えていた。

「終わったぁ~」

「清水くん、お疲れ様~」

「うわっ」

 急に後ろから声を掛けられてビクってしてしまった。

 振り返ると、美少女がいた。黒髪をポニーテールにまとめた背のちっこいメガネっ娘だけど、えっと、だれなん?

「あ~、清水くん酷い~こいつ誰っだって思ったでしょ?」

 ……素直に頷く。

 彼女はぷ~っと頬を膨らまして笑うと、

「そっかぁ~仕方ないよね。中学の時同じクラスになったことないもんね。わたし真島、真島香織だよ」

「あ~、うん。えっ、ああ。三年の時二組の? うん、分かる分かる」

 なんとなく思い出した。俺と仲の良かったダチのクラスにいたな。

「え~覚えてて、というかわたしのこと知っててくれたんだぁ。ありがとう~」

「いやいや、言われるまでわからなかったし、お礼言われることでもないっしょ。そっちこそなんで俺の名前知ってるの?」

「あははっ、知ってるから知ってるんだよ。ねぇねぇ、それよりも清水くんの写真撮って良い?」

 なんか誤魔化された気がするけど、

「なに、写真て。なんで俺撮るの?」

「ん~、水を張って田植えされた田んぼと夕陽と清水くんが映えるかなって思って」

 映えるのそれ?

「まあ、構わないけど。真島はそんなの撮ってどうするの?」

「わたしのことは香織って呼んで、わたしも悠くんて呼ぶから。えっとね、インスタに投稿するの。結構こう見えてフォロワーいっぱいいるんだよ」


 いきなり名前呼びの要求には面食らったけど、それから何枚か写真を撮られてから帰宅した。LINEのID交換してインスタも教えてもらって、夜寝る前にさっき撮った写真の投稿を見たけどマジやばかった。俺がモデルだとは思えない映え方だった――



「おはよ~悠くん。どうしたぁ? 眠そうだぞ~」

 朝から元気な香織と一緒に通学する。男子校と女子校で校名こそ違うが、実は隣同士に学校が有り、来春には両校が合併して男女共学校になることが決まっている。なので校門までは二人で一緒に通学している。

「ううん、なんでもない。ちょっと寝不足なだけ」

 昨夜の夢を思い出しちょっと気まずく思うが、素知らぬふりをする。

「ほら、遅刻しちゃうよ。行こっ」

 香織は俺の手を取り、歩き出した。

 急に手を取られてドギマギして顔が熱くなる。後ろから見る香織のちょっと耳も赤いような気がするけど気のせいだよな。


 自転車通学の香織の友達を見かけた時、慌てて繋いだ手は離してしまったけどそのまま二人で並んで歩き、校門のところで別れた。



 教室に入り自分の席につくと直ぐ、友人の榊透さかきとおる水上与一みなかみよいち、少し後から林原郁登はやしばるいくとがニヤニヤしながら近づいてきた。

「三人ともおはよう」

「何がおはよう、だよ。朝っぱらから見せつけてくれちゃって」

 榊が早速茶化してきた。

「なになにどうした? なんかおもしろいことでもあったのか、透ちゃんよぉ」

 与一が乗ってきた。

「それがさ、今朝、悠が例の彼女と一緒に並んで登校してきてたんだよ。別れ際なんか手を振り合っちゃったりして、もう、熱くって梅雨明けも近いなっ」

 ちっ、面倒なやつに見られた。あと梅雨明け関係ないだろ。

「悠、おまえあの娘は彼女じゃないって言ってたじゃん。なーに、付き合い出したのか?」

 スマホを操作しながら郁登も聞いてきた。

「いや、まだ付き合ってもいないし、恋人でもない」

「うそつけ、じゃあこれ何だよ?」

 と郁登はさっき操作してたスマホの画面をコッチに向けてきた。

「へっ!?」

 思わず変な声がでた。

 スマホの画面には俺と香織が手を繋いで歩いている後ろ姿が写っていたのだ。

「俺の彼女さ、あっち(女子校)なのは知ってるよね。で、悠の愛しのあの娘は俺の彼女の友達なんだよね。で、『香織ちゃんと郁登の友達がお手々繋いでるの見た』って写真撮って送ってきてくれた」

 今朝見かけた香織の友達って郁登の彼女だったのか。


 ピコン


 ポケットのスマホが鳴る。画面を見ると香織からで『 (ㆀ˘・з・˘)ァゥゥ 』の顔文字。

 …………あっちも大変なようです。

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