コトバ天秤
東雲 紗來良
第1話
ゴールデンタイムの番組のチャンネルを適当に変えながら、ただテレビの光をあびていた。丁度一周回したところで指を止めた。
「ナメクジみたいな動きだな」
「ちょっとその言い方やめてくださいよ!」
黒縁眼鏡の如何にもインテリ感満載のタレントがモテなさそうな顔の後輩タレントを侮っていた。そしてスタジオの人間は声を弾ませてわっと笑うのだ。
侮らなければ人間は笑わない。
そんな悪風に染まっている匂いがする。
しかしこれはあくまでも彼らは仕事でやっているのであって、楽屋に戻ればまた別人になってしまうのだろうと思う。
『なんで言葉ってあるのか、なんで生まれたのか。てか、悪口とかいらないでしょ』
スマホの画面に指を滑らせて文字を打った。SNSの掲示板にボールを投げる位の軽さでメッセージを挙げる。
「ゆう」さん1いいね、「KAITO」さん2いいね、……「ゼリー」さん6いいね。
「何これ」
「コトバ削除追加委員」さんいいね……。
プロフィール欄をタップしてみる。
「コトバの削除、追加をお引き受けします。お気軽にお声をおかけください。
あなたの嫌いな言葉をこの世から無くして、綺麗なコトバで溢れる素晴らしい世界を作っていきましょう! メッセージ待ってます!」
何かの宗教にも見えるがただの遊びにも見える。
しかし心の奥底では一瞬夢を見たいと思った。この世界から嫌いな言葉を無くしてしまえば、と。
「人を不快にさせる言葉を、この世界から消してください」
送信。
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