talk6 いつもの学校

小鳥が鳴いて、朝だと教えてくれる。少しだけうるさい。

取り合えず鳴き声を止める為に、鳥の声がする方に向かって、手をバタバタさせる。

バタバタし過ぎて、ベットから落ちる。


「ふぅにゅぅ」


痛みを言う代わりに、これでもかと言う位のだらけた声が出る。

いつも通り目を覚ます為に、洗面所に向かう。

昨日少しだけHEBMDSUをやり過ぎたのか、まだ若干どころか滅茶苦茶眠い。

洗面所で顔を洗っても、全然起きない。

洗面所から出て、リビングに行くと親父が居た。

いつも通り味噌汁を飲みながら、テレビを見ている。


「おはよー結杜、いつも通り良い朝だな」


「んんー、ぉはよぉー」


椅子に座り、余りの眠たさにテーブルに置いてある朝ご飯にダイブする。

起き上がるのが面倒くさいから、そのまま口だけを動かして食べる。


「結杜、汚ーい!ちゃんと起きて食べて―!」


おふくろからおしかりを受けて顔を起こす。

その光景を親父は笑いながら、見ている。


「ダッハッハ!ゲームのし過ぎじゃないのか?程々にしよろー」


「んんー」


何をしても起き切れない頭を働かせて返事をする。

何とか起きて、ちゃんと朝ご飯を食べ終える。


「ほらほら、もう一回顔洗ってー、お米粒いっぱいついてるよー」


おふくろからタオルを渡される。

言われた通り、もう一回洗面所に行って顔を洗う。


「ぷぅっはぁ」


二回目にしてやっと、完全に目が覚めた。


「おふくろ、親父、おはよ」


完全に起きた頭でもう一回、挨拶をする。

親父はもう、玄関で靴を履いていた。


「おはよ結杜、随分と遅い挨拶じゃないか、父さんはもう行ってくるぞ!」


最後に「行ってきまーす」とだけ言いながら家から出る。

俺は部屋に戻って、制服に着替える。

着替え終わって、部屋の鏡を見る。

ネクタイ、よし。ベルト、良し!鞄、OK!!

今日もいつも通り完璧だ。

そんなことを言っていると、そろそろ時間がヤバい。

急いで、リビングまで降りる。


「おふくろ!俺も行ってくる!」


おふくろは俺の考えを読み取ったのか、弁当を持つ。

持った弁当を、阿吽の呼吸レベルで受け渡しをする。


「貰ったぁ!」


「渡したわ!行ってらっしゃい!」


そのまま、玄関に直行して靴を履く。


「気をつけて行ってきてねー」


さっきの空気とは、まるで真逆の空気感で見送られる。


「む!」


と返事をして、玄関を閉める。

少しだけ走って、学校に向かう。



   ←REAL←



学校の直前の交差点で、後ろから声がした。


「よ!結杜、おはよ!」


「榛也、おはよ、身長また縮んだ?」


「縮んでも伸びてもねーよ!170から一個も変わってねーよ!」


「俺も―」


「結杜、お前175位だったよな?何の『俺も―』だよ」


そんな他愛も無い話をしながら、学校に入る。

校門の近くでもう一つ、見知った顔を見つけた。

が、しかし、何かを探すのに必死っぽく、こっちに気付く気配はしない。

終えは何も言わず榛也を見ると、榛也も何も言わず頷いて答える。

近づいて、状況を聞いてみる。


雪街ゆきまち―、どした―?校門のど真ん中でめっちゃ邪魔だぞ?」


雪街は振り返る事はせず、探し物を続けながら答える。


「あぁ結杜?いやね、ここら辺で鍵落しちゃって……」


今日は眼鏡をかけていない雪街。

ぱっと見渡すと、俺の足元にそれっぽいものが落ちてた。

拾って渡して、顔の近くで見せる。


「鍵ってこれの事?」


近過ぎたのか、ちょっとだけ顔を引き、眺める。


「あ、そうそう!これこれ!ありがとー」


下駄箱で、俺から鍵を受け取る。

教室に向かいながら、眼鏡が無い事を疑問に思っていた榛也が質問する。


「ユキユキ?今日眼鏡どした?」


恥ずかしそうに苦笑いしながら答える。


「実は昨日、レンズが両方共割れちゃって……」


「そんなことあるのか?知らんが」


榛也が驚く。

すかさず、「無い!絶対無い!100%無い!」と雪街は同意する。

何をすればそんな絶対無い事が起きるんだ。


「俺らは眼鏡かけた事無いから分からんけど、冗談にならんレベルって事は分かる」


榛也が俺の言葉に相槌を打つ。


「ほんっとに超見えない、ぶちゃっけ言って今2人の事は声だけで判断してる」


「なんでそれで階段上れてんだ……すげぇなユキユキ」


「ふっふっふ……伊達に眼鏡かけてる訳じゃないんですよ」


普段ならあるハズの眼鏡をクイッっとかけ直す。

今日は何も無いけど。


「絶対、眼鏡を能力の枷的な何かと間違えてんだろ」


榛也がツッコミを入れる。


「眼鏡がない代わりに音を正確に聞き分ける力を手に入れたぁ!くたばれぇぇ!結杜ォォ!」


「な、何いぃぃ?!ごふぁぁぁぁ!!」


雪街が痛くないくらいに殴ってきたから、攻撃を受けてダメージを受けたふりをする。


「なんで結杜も結杜で乗ってんだよ、全然音聞き分ける能力関係ないだろ、それ」


突っ込み切れなくなったのか、先に教室に入る。

すると、何やらいつもよりざわざわしていた。


「ねーねー、聞いてる?転校生が来るんだってー!」


「えー、そうなの?!どっちかなー?男の子かな?女の子かな?」


「女子かぁ……可愛いかな?」


「まだどっちか聞いてないけど?」


「いや、きっと綺麗系だ!」


「え、俺可愛い系がいい」


「だから、まだどっちか知らないっつてんだろ?」


聞く所によると、転校生が来るらしい。

成る程、これでクラスがざわついてたのか。

不思議に思ったのか、榛也が口に出す。


「転校生?先生そんな事って言ってたっけ?」


雪街が首を横に振る。


「いや、金曜も木曜も、そんな事言ってなかった」


「あ!」


思い当たる節が1つだけある。

確か………?何て名前だっけ?


「何かあったか?そんな難しい顔して」


「そう言えば土曜に、隣に引っ越してきたのがいたなと……ただ名前を忘れた」


そう話していると、教室の扉が開く。

そこに居たのは、タコセンこと、担任の凧屋先生だった。


「ほらほら、席ついてー、ホームルーム始めるよー」


名前があれだが、かなりの美人の女の先生である。

皆が席に着く中、一人の女子が手を上げて、質問する。


「せんせー、転校生ってどんな子ですかー?」


「あたしもさっき知ったから、よくわかんない」


また別の女子が手を挙げて質問する。


「男の子ですか~?女の子ですか~?」


「んー、女の子だったよ」


クラス中が、歓喜の声に包まれる。

タコセンは教室の外で待ってるに「入っておいでー」と女の子に手招きする。

入ってきた女の子は見覚えのある顔だった。あの顔は……隣に引っ越して来た人。

転校生が教壇に向かっている間に、タコセンは黒板に名前を書く。

自己紹介を始める。


「初めまして、路月みちづき 菜那恵ななえです」


その一言でまた、教室が沸きあがる。

口々に「可愛い~」だの「初めましてー」だの言っている。


「席はそうだなぁ」


と言って、クラス中を見渡す。そして俺の方を見る。

瞬間、俺は嫌な予感がした。残念ながら予感は的中した。


奈倉なそうの隣だ」


「え”?!俺の隣?」


急に指名されて、びっくりする。

びっくりし過ぎて、変な声が出た。まさかの隣。

クラスメイトは特に俺を責める訳でもなく、「えぇ~、遠い~」だの「やったー、近い」とか言っている。

俺は全然それどころじゃない。

路月さんはこっちを見て、「よ、よろしくお願いします」と小さく言う。


「よ、よろしく」


つられて返す。

静かに隣に座る。


「さぁ、ホームルームは終わり!あとは路月ちゃんを押しつぶさないように質問する事!以上!」


その直後にチャイムが鳴り響く。

俺はそそくさと、榛也の方に逃げる。


「助けてくれぇ、俺が潰される」


俺の席の方に、目を向ける。

チャイムが鳴ってから数秒しか経ってないのにも関わらず、既に人がいっぱいになっていた。

勿論、中心には路月さんが居た。

引っ越してきたばっかりで人に慣れてないのか、物凄く困っていた。


「人ってなんで目新しい物に群がるのかね?」


「自分達に無いと思う何かでも感じてるのでは?」


「いやぁ、ふっかいねぇ」


ちょうど来た雪街がそう零した。

そこまで、深い事を考えている訳ではないんだけど。


「それにしても、すっごい人気だね」


榛也は軽く返す。


「そーだね」


「あ、榛也、今日も頼んで良い?」


「あぁ、HEBMDSUか?いいぞい」


俺が返事をする前に、雪街が驚く。


「えぇ!?結杜、やっとHEBMDSU始めたの!?」


「え、うん、まぁ、土曜に買って……」


余りの気迫に、若干引いてしまう。

が、そんな事は気にするどころか、雪街は俺の言葉すらも聞かずに、身を乗り出して聞いてくる。


「一緒にやろーぜ!!全然レベル上がらなくて困ってたんだよ」


「おうおう!一緒にやるぞいユキユキ!」


今度は榛也が悪乗りする。

まぁ、人が増えてくれる事は良いと言うか、むしろ嬉しいんだけど。


「店長とかも一緒だけど、問題ない?」


そう、雪街は、俺たちと一緒にあのゲーム店に結構入り浸ってる。

その為、勿論俺と一緒に店長と菊乃さんにも、認知されている。

俺らが集まって煩くしてる時、店長はたしか「賑やかなのは良い事だね」なんて言ってた気がする。

あの人、ホントに何かがゆるくないか?いや、ただ単に呑気なだけなのかもしれない。


「お!それじゃ、結杜と一緒に鍛えて貰おうかな」


あぁ、雪街コイツ雪街コイツで呑気だった。

まぁ、こう言う所だったり、おふざけが過ぎる所が好きで一緒に居るんだが。


「もう一個友達ついでに頼んでいい?」


雪街が顔の前で、手を合わせて言ってくるが、何となく予想はできてる。

きっと、"あれ"だろう。

俺と榛也は目を合わせる。

同時に頷く。


「もう直ぐ誕生日ですので、祝ってほしいのです!」

 

「でしょうね」


榛也が少し仕方なさそうに言う。

しかし、なんだかんだ榛也も嬉しそうにしている。

まぁ、雪街とも結構長いから男同士でもこう言う事をしている。


「ケーキ位なら、用意しとくよ、いつだっけ?」


「ありがとなんだけどさ、君たち絶対覚えてるよね?何?いじめ?」


「三日後でしょ?」


「分かってんじゃん!」


始業のチャイムが鳴る。

タコセンが教材を持って来る。


「授業始まるよー、押しつぶすのやめなさーい」


その一言でそれぞれ席に着く。


「それじゃぁ、始めます!」


タコセンが授業の始まりを合図する。



   ←REAL←



「ふぃー、終わったぁ」


ついさっき、ちょうど四限目の終わりのチャイムが鳴った所だ。

また直ぐに隣の路月さんに「お弁当、一緒に食べよー」とか言って人が集まる。

そして、またしても俺は弁当を持って、榛也の所に避難していた。


「ホントに飽きないねー、彼ら」


弁当を持ってきた雪街が皮肉そうに言う。


「まぁ、あんまりそう言う事言ってやんなよ」


榛也が優しく宥めながら、鞄からコンビニで買ったパンやらを出す。


「あんまり言うと、嫌われんぞ」


そんな事を喋っていると、視線を感じたから見てみると、路月さんと目が合った。

さっと目を逸らされた。そんなに何かマズい事でも言ったっけ?


「どした?君もそんなに気になるの?」


雪街は違和感を感じなかったのか、聞いてきながら弁当を開ける。


「いや………何でもない」


俺も違和感を気にせず、弁当を開ける。


「あ!その唐揚げちょーだい!」


「い・や・だ」


勝手に伸ばしてきた雪街の箸を折れんばかりに掴みながら、自分の弁当を食べる。

ホントに眼鏡無いのに良くやるよな。こいつ。


「いやだあぁぁ!ちょうだい!」


子供みたいに駄々をこね、粘るに粘る雪街。

そんな雪街に榛也が後ろから近づき、頭のてっぺんにチョップする。


「そぉぉぉい!」


「ぐおやぁっぐ!」


奇天烈な雄叫びを上げ、倒れこむ。

榛也は倒れこんだ雪街の頭に既に食べ終わった空のコンビニ弁当を置く。


「ほら、俺のやるから落ち着けユキユキ、もう無いけど」


「惨めだぁ、いじめだぁ、満たされないよぉ」


と言いながら、自分の席に座って自分の弁当を食べる。


「何のどこが惨めなんだよ……」


「ホントだよ」


榛也が俺の意見に同意する。


「それにしてもさぁ、結杜」


雪街が、いつの間にか食べ終わった弁当を片付けながら、聞いてくる。

早くないかコイツ。ついさっき開けてなかったか?

いつもの事だけど。


「なんでHEBMDSU買った時、言ってくれなかったのだ?」


雪街は不機嫌そうに声音を変えて、聞く。

声音のせいで若干圧もかかってるように感じる。


「えぇっと、後でいっかなぁーって……」


「良くない!」


雪街は俺を見て、ニヤッと悪戯するような顔をする。

俺はその顔を読み取って、雪街に合わせる。


「良いじゃないか!今日から一緒にやるんだから!」


「一番に私に教えてって言ったじゃん!私とHEBMDSU、どっちが大事なのよ!」


そのやり取りを聞いてた榛也がただただ呆れる。


「なんなんだこのクソ低レベルキモキモ茶番、ミジンコすら食わねぇぞ?」


いいタイミングで授業開始の5分前チャイムが鳴る。

それを聞いて、雪街が言った。


「あー、予鈴なったから席戻るわー」


俺と榛也は、口をそろえて突っ込んだ。


「「お前いつからそんな真面目ちゃんになったんだ?!」」


雪街の言動は、ホントに唐突過ぎてたまに読めなくて困ったり若干引いちゃったりする。

まぁ、そんな"雪街"って感じが俺ら含めこのクラスに定着してるから、逆にそれが無いと心配する。


「じぁ、俺も戻るわ」


榛也も雪街につられて、席に戻る。

二人共席に戻ったから、俺も授業の準備を始める。

クラスのやつも自分の席にだんだんと戻って行く。

ちょうど最後の1人が座った直後に、先生が入ってくる。


「それじゃ、授業を始める」



   ←REAL←



……いつの間にか授業中に寝てたらしい。

その証拠に、気が付けば夕暮れ時で放課後のチャイムが鳴っていた。


「……ねっむ」


そう言って起きると、隣から声が聞こえた。


「おはようございます、良く寝てましたね」


驚いて、後ろに飛びのける。

その声は、榛也の物でもなく、雪街の物でもなかったからだ。

見上げてみると、そこには路月さんがいた。

全くこの状況を呑み込めない。


「み、路月さん……帰らないの?」


「もう帰りますよ」


鞄を持ちながら、そそくさと教室の扉に向かう。


「それじゃ、また明日」


路月さんはそう言って、扉を閉めて帰る。

何故か待っていた(かもしれない)路月さんの後姿を見て、ふと思う。


「何で居たんだ?」


それが分からないが、取り合えず帰る準備をする。

あれ待って?家、隣だったよな?帰りに会うじゃん。

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