第6話 トイバトル
「あ、トイバトル」
僕が画面を見て、口にする。
そう、部長の神城さとるが指差した先にあったのは、トイバトル。
誰でも知っている人気のゲームだ。
「お、知ってる?」
部長が聞き返す。
知っていたり、やっていたりすれば、だいぶ話が早く進むだろう。
サッカーや野球はみんなだいたいやったことがあるけど、もう少しマニアックな球技だったら触ったこともないということがあり得るのと同じように、ゲームもすごい有名なゲームだったら、野球でいうところのキャッチボールぐらいやったことがあるという状態に近くなって話が早くなるのだろう。
「弟がやってますね。ぼくはやったことないけど」
僕は答える。そうやっているのを見たことはあるけれども、とくにやってみたことがないレベルだった。このタイプのネットワーク対戦のゲームは基本的には、ゲーム機一台につき一人という感じになるので、兄弟で時間があいた時に遊ぶゲームにはなりにくい。
「そうか、なら話は速いわね、これは1,000万本売れたFPSゲームよ!」
綾崎さんが言う。
そう、1,000万本売れているというのは、誰でも知っているレベル。
通常の会話に使っても誰かは知っているから名前ぐらいはかならず耳にするレベルのメジャーなゲームだ。
「正確にはTPSゲームね、自分の姿が映るのがTPS、自分の視点でプレイするのがFPS」
部長の神城くんが訂正した。
細かい違いがあるのだろう。
FPSは激しい表現のものも多く、もう少し大人がやるゲームの印象がある。僕たちはまだ未成年だ。このトイバトルはそういうところもおもちゃといところで、やわらかい表現になっている。
「あ、そういう違いがあるんだね」
僕が頷く。
素人からは違いはわからないけれども、中の人からすると大きな違い、ということがゲームの世界ではたくさんあるのだろう。ここではどちらの表現でもいいと思うけれど、プロになって活躍したりしたら外に向けて発信したりするから、そのあたりの詳しいことをわかっている必要があるのだろうな、と思った。
「そう、このゲームはそのFPSのとっつきにくさを取り払って、可愛いキャラクターがおもちゃの武器で4vs4で戦うゲームなんだ」
神城くんは言う。マニアックな印象のあるFPSのイメージを柔らかく楽しくした印象に変えたのがトイバトル。しかし、ゲーム性はハードなまま、というのがこのトイバトルの印象だ。
「あ、チーム戦なんだ」
僕が聞く。
弟がなんとなく一人でやっているのを見ていただけで、具体的にはどんなゲームなのかはわかっていなかった。一人でもできるけれども4人必要なゲームということなのかもしれない。
「そう、僕たちのクラブはいま3人しかいない、だから君が必要なんだよ」
部長の神城くんが言う。
そこまで言ってくれるとうれしい。
しかし、もちろん気になることはあった。
「なるほど、そこに素人が入っても大丈夫なんですか」
僕が聞く。一番大事なことだった。
スポーツの世界でも当然子供の時からやっている人が強い。
「大丈夫、3ヶ月でプロレベルになってもらうから」
さらに後ろにいた美少女がボソッと呟いた。
「え?」
僕はその内容に驚いた。
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