第3話 騎士団の噂

 先頭を行くケイトは足を速めながら、路地の奥まで進んだ。細い通りに入ると、ひとたび入り組んだ迷路のようになっている。

 路地は背の高い建物に囲まれているため、日の陰になり、ひやりとしていた。

 このような通りは、奥に行けば行くほど治安が良くない。

 ときおり物乞いや浮浪者がむしろの上から、暗い目を向けてくるのがわかった。

 その一切を足早に通り過ぎ、いくつかの角を曲がると、また焼けつくような陽光が降りそそぐ開けた通りに出た。ハークには、なぜ異様に先を急ぐのかわからなかった。振り向くと、黙ったままのフィルの表情もどこか固かった。


 息をついたハークはロゼに話しかける。

「さっきの、何の集団だったんだろう」

「王宮に交易品を献上するんじゃない?王族は大きい宮殿で、いい御身分なこと」

 ロゼは、「それに引きかえ」とケイトのことをちらりと見る。

「こちらの王族の方はずいぶんと苦労が多いみたいね」

「聞こえてるぞ。ところでさっきの集団だが、セインベルクの連中だ。いくつかの旗に王室の紋章が入っていた」

 続いてフィルも、うーむと唸った。

「奴らの目的は知らんが、ここで見つかると厄介だな。ローヴェラス騎士団もかんでいるとなるとなぁ」

「何それ」

 ロゼは聞きなれない言葉に眉をひそめる。ケイトとラピスラズリの表情が沈んでいるのを見ると、状況は不穏そうだ。

「魔術やら科学やらを取り入れていろいろ危ないことやっとる集団なんじゃ。今やセインベルクでは一大勢力でな。王室もすっかり依存して、なかば骨抜き状態ときたもんだ」

 フィルは、悲しそうにため息をつく。ラピスラズリもその隣で憤慨した。

「あそこが今頃きっと魔獣使いを大量に輩出してるのよ。ロゼに危害を加えようとした連中もその一味」

「とにかく今は、避けるべき相手だ。卑劣な手口も厭わない奴らだからな。国外となると、何をしでかしてくるかわかったもんじゃない」

 ハークはケイトの強い口ぶりから、その組織に相当な恨みがあるんだろうなと感じた。

 アルフレッドは即座にロゼのそばに寄った。

「ロゼ、あなたは僕が守ります。何も心配することはありませんよ」

「うん。ありがとう」

「俺もいるから」

 ハークもその隣で挙手しておいた。ロゼはうんうん、と両者に微笑んだ。フィルは街の地図を入手し、清潔で目立たない宿に目星をつけている。さすが仕事が早いと暑さにまいっていたハークらは沸き立った。


「さっきの一団のなかに魔獣使いはいたか?」

 ケイトはラピスラズリに確認をとった。ラピスラズリは困り顔だ。

「さすがの私も、召喚されなきゃわかんないわよぅ。でも、なんか得体のしれない男はいたわね」

「へぇ」

「みんな頭から顔にかけて日よけの布巻いてたでしょ。でも、そいつだけ目が合っちゃった。向こうも多分こっちに気づいてる。アルフレッドの阿呆は、暑さにやられてこれっぽっちも気づいてなかった」

 ラピスラズリは、何やら騒がしいハークら三人を遠巻きに眺める。アルフレッドの鋭敏な神経は気候の急激な変化で、おそらく鈍化していると見ていた。

「私がいるから、ケイトは大丈夫よ」

 ラピスラズリは、唇を固く結んだケイトの頭に手をやろうとしたが、ふとアルフレッドの言葉がよぎり、手を止めた。

 —「あなたたちの関係は間違ってます」だって。どういう意味さ、あれは。

 当のアルフレッドもロゼに似たような発言をしているではないか。自分たちのことを棚に上げて何を言いたいのだろうか。それとも、何か別の意図があるのだろうか。

 謎のためらいを受け、ケイトは不思議そうにつぶやいた。

「ラピス、最近なんか変」

「変?」

 軽い身のこなしでどこがだと詰め寄られると、気のせいかもとケイトは視線を逸らした。

「なんでもないさ。行こう」

 ケイトはぽかんと立ちすくむラピスラズリの腕を引くと、ハークらのところへ移動した。

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