第14話 終幕

 東の空が薄明りをはらんで、レオセルダの街を静寂で包んだ。

 夜中、街を徘徊していた獣たちは、いつとも知れず森へと帰っていった。

 ロゼたちは、のちに聖獣博士のフィルから、なぜ野生の獣が街に集まってきたのかについての仮説を聞いた。

 獣たちは満月と魔の引力に引き寄せられたのだと。

 それでもロゼにはその場に自分が居たことにこそ原因がある、と思わずにはいられなかった。

 当のフィルは、獣に遭遇するのを避けるため、屋内から動くに動けなかったのだが、騒ぎが収束したのち満身創痍のアルフレッドらのもとに駆け付けた。

 王都の有望な研究者が危険な真似だけはしないようにと、ケイトとラピスラズリから強く言い渡されていたらしい。

 獣博士の肩書きはやはり伊達ではなく、冷静にアルフレッドたちに傷の手当をほどこした。

「あの魔女、ずいぶん派手にやってくれたわね」

 手持無沙汰のロゼは、それを待つ間、改めて街の中心部に位置するこの大広場を見回した。

 怪我人は多数。メインテントが倒壊したときに、巻き込まれた者が多くを占めている様子だった。

 しかし、さすがは大都市といったところか、一様に白衣に身を包んだ医師団の派遣数は充実しているように思われた。

 幸いなことには、あれほどの惨事だったにもかかわらず、未だ死人の報告はされていない。

 カーニバル中の賑わいは一夜の夢のように、今はただ静かに人々が往来しているだけだった。

「あ」

 ロゼは、遠く人ごみの中からこちらへ向かってくるハークの姿を見出した。

 ぐったりと目を閉じ、しかし決して息絶えたわけではなさそうなケイトを背負っているのがわかった。

 ハークの無事を確認し、平静を装いながらも、胸が高鳴るのを感じた。

 しかし、こちらから走り寄るかどうか、結局ハークがこちらに到達するまで迷っていたのだった。



 空はいよいよ薄い氷のような透明色に。

 それを破るかのような最初の陽光は、夜の闇に冷え切っていた都市の温度を徐々に上げはじめる。

「ああ、今日も暑くなりそう―」

 人目に触れない日陰の場で仰向けに横たわる者は、反転した空の景色と木々に向かってそうぼやくのだった。

 つんと鼻先をかすめる、腐葉と土の匂い。

 ここが街のどこだかわからない。こんな場所あっただろうか。

 しかし、確かにわかるのは、自分はまだこの街に生かされているということだけだった。

fin.

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