竜の涙と真実の旅、妹を探し青年は真実を知る。
@ie_kaze
その竜との出会いは突然で、少年は期待に満ちあふれる
クラムの目の前には4つの足で立っている生き物がいた。
辺りを見渡すと薄暗い洞窟のような場所で、岩盤に囲われた壁は何かが明るく光っていた。
「あれ、俺はさっきまで」
クラムは少し前まで火山の頂上にいたはずだった。
それがどうしていまこんな場所にいるのか、頭に靄がかかるようにうまく思い出せない。
そんなクラムの目の前にいたのは、クラムが今まで見たことのない生き物だった。
背丈は何十倍もあるかのようで、首が痛くなるくらい見上げなければいけなかった。
皮膚は岩のように固そうに見える、首は長く、背中にはその大きな体越しだが羽のようなものが垣間見えた。
クラムが一目見ただけでわかる神秘的な存在だった。
異形な存在だったが、邪悪な感じや嫌悪感を感じるわけではない。
クラムには魔法が使えないかったが、どこか神聖なものをクラムでさえ感じられた。
昔話に出てくる、竜と呼ばれた生き物に似ているなとクラムは思った。
翼をもち4足の足で立った生き物、皮膚は岩のように固く、長い首を持ち、竜によっては火を噴き、水を吐き、魔法を放ったりもするという、謎も多い超常の存在。
そんな超常の存在は子供たちの間では有名な存在だった。
だが青年であるクラムにはただのおとぎ話であり、現実に存在しない生き物でしかなかった。
誰かしらにその存在を発見されたという話もなく、実際には昔の人の考えた空想の生き物だと思い、頭の片隅で埃を被るような存在だった。
そんな生き物などいない、だけどいたらどんな楽しいことがあるだろうかと。
幼いころにそう思っていたことを思い出していた。
実物を見れば、そんな生き物はいないと言えなくなるのだなと。
そんな夢物語な存在がいまクラムの目の前に立っている。
釣りがちな目がじっとクラムを覗き込む、まるで心の内側を覗かれているかのようで、くすぐったさも感じたが悪い感じはしなかった。
おとぎ話の竜はいろんな存在であった、街を破壊するものもいれば、その逆で街を守る存在もいる。
ただ戦うのが好きな竜もいれば、自然を愛し平和に暮らしているという竜もいる。
目の前の竜は一体どんな存在なのだろうか。
だけど、悪い奴ではないなと、そんな予感はしていた。
クラムには期待していることが一つだけあった。
それは竜の物語には、全てにおいて共通している点があるということ。
どの竜も、人間と契約をすることで特別な力を与えるというものだった。
絶対的な力を与えられる者、魔法の才を与えられるもの、生物を魅了する力を与えるもの、他にも特別な力があったはずだが、クラムは全てを覚えてはいなかった。
無力な自分を変えられる、そんな力が手に入れば、きっと取り戻すことが出来るに違いないと思いながら。
「汝、我が試練を乗り越えし者、我と契約を望むか」
竜の口からそんな言葉が発せられた、クラムは心の中を読まれでもしたのかと思った。
「もちろん、いま力をくれるなら悪魔にだって魂を売っていい」
クラムに躊躇いはなかった、それは欲してやまない機会だったからだ。
「私は素直な人間が好きだクラム、しかし悪魔は捨て置けぬな、あいつらは碌でもないやつらだ、その名はもう口にするでない」
意外な反応だった、表情は分からないが、その声からも不快感を感じる。
「わかった、もうその名前は口にしないよ」
「実に好ましい男だな貴様は」
「ありがとう」
「では契約に入る前にいくつか聞いておきたいことがある、そうだな、まずは自己紹介といこうじゃないか」
「自己紹介、か」
「何だ、嫌か」
「そうじゃない、意外だなと思っただけだ」
「では問題ないな、我が名は真龍アストル、真実を司る竜である。貴様の名前をいま一度聞こうじゃないか」
「真実を司るってどういうことだ」
「知りたいと思えば、その答えにたどり着くことが出来るというところだ、もちろん、並大抵の覚悟ではたどり着けないものだが」
胸のわくわくが止まらない。
『それは何が何でも欲しい力だ』
そう心の中で呟きながら。
「次は貴様の番だ」
アストルに促され、クラムも自己紹介を始めた。
「おれの名はクラム、すぐ近くの村で妹と二人暮らしていた男だ」
しばらく沈黙が流れた、クラムはこれで自己紹介は終わりだと思っている。
「それだけ、か。他に何かないのか、どんな仕事をしているのかとか、どういうことがしたいのかとか」
アストルと名乗った竜が戸惑っていた。
「妹とむつまじく暮らせれば、それだけでよかったんだ」
クラムはぶつけようのない憤りを抱えていた。
「良かったというのはどういうことだ、そういえばクラム、貴様が何故私に力を求めるのか聞いていなかったな。お前が力を欲する理由を、お前の口から聞かせてはもらえないだろうか」
「妹を、攫われた唯一の兄妹を取り戻したい」
クラムは振り返り始めた、どうしてこんなことになっているのかを。
それは今日の出来事だった。
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