忘れものおくりびと―盆之胡瓜の道草―

すでおに

序章 盆之胡瓜登場

 夜の帳の目を盗み、黄色い月がのぞいていた。


 参拝客が行き交っていた墓地もとうに店じまいしている。周囲を囲む舗道には控えめに街灯が灯っているものの、中は夜闇に包まれている。草木は眠り、野良猫は姿をくらませた。慰霊の祈りは地表に沈下して夜明けを待っている。


 そこに橙色の提灯が一つ、ぼんやり浮かんでいた。


 夜の墓地を男が散歩している。淡灰色のスタンドカラーシャツに首から提げたシルバーの懐中時計、八分丈の黒のズボンを黒のサスペンダーで留め、シャツの上は濃い青緑色の羽織。

 針金のような丸眼鏡をかけ、つばの短い丸いハット帽と草履の黒い鼻緒は夜に溶け込んでいる。和洋ちぐはぐのようで、この男が着ると同じ釜の飯を食った戦友のように調和した。


 男は名を盆之胡瓜ぼんのきゅうりといった。

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