第37話 「幸せの黄色めのハンカチ」

彼女ほど特別な魅力を持った人は見たことがなかった。この目では…

 

 それを目元へと運ぶだけで、世界中の男女を虜にする。でも、むやみやたらに使ったりはしない。本当に寂しいときにだけしか使わない。私利私欲のためにも使わない。

 

 ある人は、同情し、またある人は共感する。全ての人が癒される。

 

 それは、どこにでもあるハンカチ。ちょっと薄黄色の生地の柔らかいハンカチーフ。

 

 彼女の生い立ちは幸薄く、暗い思い出しかなかった。

 

 最初にそのハンカチで涙を拭った時の、幸福感は今まで味わったことのない、この上なく形もない、限りもない、なんとも表現しようない幸せとしか言い表せない。

 

 どこで手に入れたのかって?

 

 あまり事細かく教えちゃうと、あの人と、もうお目にかかれない気がして…。

 

 

 

 あれは、電車の中で…ふと私にそれを差し出してくれたひと

 

 優しい男らしさを持ち、ちょっと小柄な感じで、寡黙なひと

 

「このハンカチを目尻に持っていき、拭った涙が乾く前に願い事を唱えれば、何でも叶うのさ」

 

 あのひとのつぶらな瞳から溢れ漏れた透明な言葉が忘れられない。

 

 会いたい。でも、連絡先や住んでいる所も何もかも尋ねる瞬間ひまがなかった。


 

 涙溢レター。


 

「あのひとと会えますように…しまった!」

 

 いつものごとく宛先の無い手紙を書き綴っているうちに、とうとう、ずっーと37年間我慢してきた言葉を言ってしまった。禁断のハンカチを使ってしまった。涙を拭ってしまった。

 レターの文字は虹んでいた。

 

 それを胸ポケットにそっと閉まった。

 

 ポケットの上の方から出ている黄色めのハンカチの三角帯から黄色い眼が消えた。

 

 あのみは、眼をそらし完全に去ってしまった。

 

 ハンカチは語りかけて来る。


「ありがとう。今まで」


「こちらこそ」


 私も精一杯の謝意を述べ、ハンカチと今上のお別れをした。


「離さないで」


 瞳と涙が終着点に着いたようだった。


 それ以来彼女は、そのハンカチを肌身離さず持っている。いつあのが来られても恥ずかしくないようおめかししている。


 だから彼女はいつも魅力的…キラキラ☆

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