拷問式進学塾
ちびまるフォイ
痛みに耐え抜いたものだけが手に入れる合格
「なぜうちの塾から有名大学合格者が多いかわかるか!
それは! 痛みに耐え抜いた猛者を育成する場だからだ!!!」
拷問進学塾で塾長はそう言い放った。
塾の教室には「夏が勝負!」などの横断幕の代わりに
古今東西から集められた使い方もわからない拷問道具が並んでいる。
「人間の記憶の中でもっとも定着するものはなにか。
それは痛み。その痛みの記憶を利用して
あらゆる試験問題を、この夏合宿で詰め込むから覚悟しろ!」
受講生は個別の部屋に通されて椅子に座らされた。
ひじ置きに腕を固定されて、指は筒状のものへ突っ込ませられる。
5本の筒に入った指の先、爪が両側からがっちりと機械で固定される。
「これから1本ずつ生詰を剥がしていく。
と、同時によくでる試験問題を見せるから記憶するように」
「はぁ!?」
「いくぞ! はあ食いしばれ!」
「ちょっ、いたぁぁぁーーーっ!!!」
人差し指の爪がじわじわとよく痛むように剥がされた。
痛みで目がチカチカするのに見える景色は試験問題。
今にも頭がおかしくなりそう。
「サイン、コサイン、タンジェント! はい復唱!!」
「サイン、コサイン、たんじぇっ……ぎゃああーーー!!」
「中指がはがされたくらいで中断するな!
はい! サインコサインタンジェント!」
「サインコサインタンジェントーーーー!!!!」
もはや悲鳴だった。
叫んで痛みを和らげないと耐えられない。
「まだまだぁ! 次はコレだ!」
「痛いぃぃーーー!!」
「痛みを知識に昇華するんだ!!」
「ぎゃあああーーー!!」
「本能レベルで試験問題を頭に入れろ!」
「あ゛あ゛あ゛ーーーー!!」
ファラリスの雄牛の拷問を終えた後、
進学塾の中で中間テストが行われることとなった。
結果はさんざんで塾長は怒りを通り越して「無」の境地に達するほどだった。
「バカな……あれだけの拷問を受けてなお
こんな点数しか取れないなんて……」
「あんな痛めつけられた状態で覚えられるわけ無いでしょう!」
「逆だ。あれだけ痛みつけてもなお、
知識の詰め込みができていないということは
君は人よりもずっと痛みに強いんだ」
「そ、それじゃ……もっと痛い拷問を……!?」
「特別部屋に連れて行け」
「いやだーー! もうこれ以上痛いのはいやだーー!!」
必死に手足をバタつかせて抵抗するもむなしく、
完全防音で中から開けることはできない特別監禁室へと送られた。
壁面には生々しく中の人間がもだえてつけた引っかき傷が残っている。
「あわわわ……」
まもなく部屋にモニターが運び込まれる。
先程までの拷問器具は見当たらない。
「いったいなにを……? 拷問じゃないのか……?」
ドアが閉められて完全な密室になると同時にモニターの電源がついた。
モニターには大切な家族へ拷問器具が取り付けられていた。
『自身の痛みに強い君にはコレ以上の拷問は効果が薄い。
そこで特別拷問をすることにした。
自分の痛みには強くてもこれは精神的な痛みを感じるだろう』
モニターにいる塾長は家族に取り付けられた拷問マッサージ機のスイッチを入れた。
『ぎゃあああーーー!! 肩こりがぁぁぁぁーーー!!!』
「やめろ! やめてくれぇーーー!!」
自分の大切な人が拷問されるのは、自分がされるよりもずっと痛みを感じる。
肉体よりも精神的な痛みが段違いだ。
『未然連用終止連体仮定命令、はい!!』
「未然連用終止連体仮定命令ぇぇぇーーーーッ!!!」
お経なのか断末魔なのかわからないほど叫んだ。
狂気の沼に肩まで浸かりながら必死に試験問題を頭に刻みつける。
「もう家族を痛みつけるのはやめてくれーーー!!」
『だったら早く試験問題を多く覚えるんだ!
さもないとどんどん家族が辛い目に遭うんだぞ!』
家族への拷問が終わって部屋から解放されると、
もう心身ともにヘロヘロになっていた。
「ようし、試験問題や解答方法も刻まれたようだな」
「もう……忘れることなんてできません……」
「本能レベルで刻まれた記憶は消して忘れることはない。
あとはその記憶で合格まっしぐらだ!!」
ついに試験当日を迎えた。
教科書を見る必要もないほど頭には答えが刻まれている。
生まれて始めて試験を前にして落ちる気がしない余裕を感じていた。
「それでは試験をはじめてください!!」
ペンを持って紙を表にした。
問題を目にした時、頭の中で記憶が一気に再生された。
まもなく、教室には担架が運び込まれてた。
「いったいどうしたんですか!?」
「わかりませ! ただ、問題を見たとたん
なにか良くない記憶を思い出したのか叫んだ後に倒れてしまったんです!」
テストは無回答のまま提出となった。
拷問式進学塾 ちびまるフォイ @firestorage
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