馬鹿の椿

弁天留星 融田(ベテルボシ・トロケダ)

第一幕 七、八、九、九

 わらべの頃より数をかぞえるのが苦手で、指の数以上のものはかぞえられなかった。

 だから毎日やっているこの腕立て伏せも、いつも、合わせて何回くらいやっているのか、俺には良く分からない。


「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち……きゅう、きゅう。」


 腕立て伏せは、九の時が一番むつかしい。

 当たり前のことなのだが、数を数える時には、指を折らねばならぬ。

 右手の小指、くすり指、中指、なんとか指、親指。

 左手の親指、なんとか指、中指、くすり指。


 そうやって、指を折り畳みながら腕立て伏せをすると、やがて、小指一本に体を支えなくてはいけなくなる。ゆえに、九はむつかしいのである。

 ちなみに十まで言わぬのは、十を数えると、支える指がなくなってしまうからである。だから、九を二回言うのが丁度良い。


「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう、きゅう……あっ!」


 ずっと自分の指ばかり見ていた俺が、だんだんの畑を照らすお天道様が真っ赤になっている事に気が付いたのは、涼やかな夜の風が、海の方から吹いたからだ。

 見下ろしてみると、俺の住む村から、ご飯の炊ける美味しそうな煙が上がっている。早くうちへ帰り、母とご飯を食べねばならぬ。

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