第29話 【二つ名】とは

 「どうしてだよ!?」


 ケイスケは周りが引くほどの大声で叫んだ。


 「……【二つ名】とは神聖なものでおいそれと与えられるものではありません。人々から認められ、それこそ英雄と呼べるに相応しい者のみその名を持つことが許されるのです」

 「俺ではそれに値しないと?勇者だぞ!」

 「先程シルフィーナたっての希望とは言いましたがもちろんそれだけでは二つ名を与えることはいたしません。しかるべき協議の後決定をくだします。そして、今の勇者様ではまだその段階にも達しておりません」

 「…ッ!あーそうかよ!良いだろう。こんな国に用はないッ!魔物にでもなんでも滅ぼされてしまえ!もう助けはしないッ!」


 ケイスケは吐き捨てると踵を返しドアへ向かおうとする。その時魅夜と目が合った。


 「…いい気になるなよ、武闘大会で思い知らせてやる。格の違いってやつをな…」


 そう言い残すとケイスケは会場から出ていってしまった。


 「…少し邪魔が入りましたが、二つ名の与える影響、気に入ってもらえて何よりです。それでは皆さん、【拳豪】魅夜様に盛大な拍手を!」


 会場の盛り上がりは最高潮に達し、魅夜は少し照れながらミオたちの元へ戻った。


 「すごいじゃん!よかったね!」

 「やっぱり思った通り、勇者は魅夜だね!」

 「…テオも二つ名欲しい…ねー魅夜、つけて」

 「俺がー??俺がつけても意味ないだろ」

 「…いーの、テオもなんか欲しい」

 「いいねそれ、ウチらもなんか考えよっか?」

 「勝手に名乗るの??恥ずかしいなー」

 「…ねはやくはやくー」

 「分かったわかった!テオは火吐くからなー…炎じゃない逆のやつとか面白いかも!」

 「どんなのどんなの??」


 テオは嬉しさと早く聞きたいのとでぴょんぴょんとその場で跳ねた。


 「……よし!【冷血竜】ってのどーだ??」

 「……魅夜ひどい」


 テオはしょんぼりしていたが、いつの間にかぴょこんとシッポが生えていて犬のようにフリフリしていた。

 おもったより落ち込んではいないようだ。


 「あれ?テオシッポが……」

 「…これ、力が少し戻ってきたから生えた。でもまだ全部じゃないからシッポだけ……未だ呪いの解除中」

 「あれってやっぱ呪いなのかー」

 「…分からない。オッサンの鑑定待ち」

 「ごたごたしてたから忘れてたけど、あの剣ガルドのオッサンに鑑定してもらってたっけ」


 テオに刺さっていた剣は持ち歩くのも嵩張るし邪魔だったので、鑑定がてらガルドに預けていたのだった。

 

 「ウチらも決めたよー!」

 「自分らで決めたのか」

 「そう!ウチは【静かなる閃光】にしたよー」

 「なんだその厨二のようで中途半端な二つ名は」

 「いいじゃん気に入ったんだから。んで、かりんは【連撃月華】にしたよー」

 「…もう恥ずかしいったら……。なによ月華って…」

 「私も決まったよー!【破壊の鉄槌】だってー!」

 「破壊って…悪役かよ。しかもそれ二つ名なのか??」

 「わかんない」


 ミオは首をひねった。



 宴も終盤に差し掛かった頃、魅夜はバルコニーで涼んでいた。

 あれからまた貴族の女子達が押し寄せてきてミオ達と一悶着あったもののそれもイベントの1つだと思うとようやくほのぼのとした気持ちになれていた。


 「どーしましたか?勇者様?」


 星を見ている隣にミオはやって来た。


 「ん?いや、ようやくゆっくりできるなーって」

 「慌ただしかったもんね」

 「お前に出会わなけりゃそんな事もなかったのにな」

 「ひっどーい、いたいけな美少女になんてことを」

 「ん、確かに可愛さだけは一級品だな」

 「え?嫁にしたいって?」

 「言ってねーよ」


 魅夜はミオからドリンクを受け取りながら言った。


 「でもそうゆっくりもしてなんないでしょ?武闘大会に出るんなら」

 「いつもの俺なら張り切ってやるんだけど、どーもねぇ」

 「なにぃ?」

 「…いや、なんでもねぇ」


 魅夜はグラスを一気に空にした。


 「じゃあこうしよっか!魅夜が大会で頑張ったら…おっぱい揉ませてあげる♪」

 「はぁ??」

 「好きなんでしょ?おっぱい」

 「なんでそーなる」

 「いいじゃん!強いとこ見せてよ!」

 「……わーったよ。先輩のこともあるしな、少しやってみるか」

 「その意気♪」

 「でもおっぱいは揉まんぞ」

 「えー」

 「えーじゃない」


 2人は再び会場へ戻って行った。

 そんな2人を見守るように空には赤い星がキラキラ輝いていた。

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