第16話 このクサレ女神ィ!!

 「犯人を暴くったってどうやって??」

 「そんなの簡単な話でしょ?」

 「どう簡単なの?」

 「もうみんなバカなの??ウチでも解るのに」

 「何か知ってるんですか??」


 シルフィーナの問いかけに響は「はぁ」とため息をついた。


 「知ってるんじゃなくて、まぁ正直想像でしかないんだけど。でもこれだけの事実でも普通解るとおもうけどなー」

 「だからなんなんだよ」

 「だーかーらー!ジルファード国はシルフィーナも荷物の人達も襲ってない。シルフィーナは城で捕まった。ここから導き出される答えは…」

 「答えは??」

 「ズバリ、犯人はグラムナレム国王かそれに近し者」

 「いや、それは考えたけども動機が……」

 「動機なんて知らないだけでしょ??見つければいいだけじゃん」


 響は言うことももっともだった。動機があるから犯人、ではなく犯人でならどんな動機か、それを探すのは道理だった。しかし、魅夜達は初めから【無いもの】としてしか考えなかった為、先に進まなかった。


 「ウチの考えだとージルファードと戦争する口実が欲しかったんじゃないかなー??」

 「確かに、そう考えると説明がつくな」

 「我が国と戦争を……??しかし何故そのような……」

 「そうです、何のメリットがあって……」

 「それはわかんないよ。この国が欲しかったーとか??」

 「そんな……」

 「証拠を掴む必要があるか……」

 「よし、ならウチに任せてくんない??」

 「え?」

 「ウチ、アサシンなんでしょ??ほんとは好きじゃないんだけど隠れて行動するの得意っぽいし??適任じゃなーい??」

 「でもどうするつもり??」


 響はかりんの方を見たが答える事はせずただニッと笑ってまた魅夜に向き直った。




 響はすぐにどこかへ行ってしまった。ジルファード王はもしもの時に備え兵を準備すると言いその場を去った。




 シルフィーナはとりあえず魅夜達と同行する事になった。

 街へ降りた魅夜はまず傷を負った右腕を治すため道具屋で薬草を購入し手当てをした。


 「うん、とりあえず治った!」

 「よかったぁ…もう心配したんだからね!!」


 ミオはぷんすか怒って何度も何度ももう無茶はするなと釘をさした。


 「無茶させないの私の役目なのにごめんねミオさん」

 「ううん良いの、これからは私が魅夜の面倒みるから大丈夫!」

 「ミオさんはそんな事しなくて大丈夫よ、昔から私の役目なんだから」


 こうやってミオとかりんはとげとげしいやり取りを繰り返してはいたが、特にケンカをしているという訳ではなさそうだった。


 「魅夜モテモテ」

 「そんなんじゃないと思うぞ?」

 「魅夜は女心がわかってない」

 「子供が偉そうなこと言うんじゃないの」

 「テオ子供じゃないもん」


 テオはいつものようにほっぺをぷくーっと膨らませた。


 「でもいいんですか?私も同行させてもらって」

 「良いって良いって、ジルファード国は忙しいだろうし1人にさせるのも危ないしな」

 「ありがとうございます。前回と言い今回と言いご恩は返しても返しきれませんね」

 「ほらもー違うだろ??」

 「はい??」

 「どうせ言うなら『助けてくれてありがとう』だけでいいんだよ。もしくは王女なら王女らしく、『妾を助けるのは当然じゃ、これからも励めよ』とかさー」

 「な…なんですかそのイメージは…」

 「とにかく、ほれ言ってみ?」

 「え…こほん。妾を助けるのは当然じゃ。これからも励むがよい」

 「…………」

 「…………」


 かりんもミオもまさかの後者のセリフに言葉が出なかった。


 「ぷっ…あははそっちかよー」

 「え?え!?」

 「まさかそっちを言うなんて…クスクス」

 「シルフィーナ様結構天然なんですね…ふふふ」

 

 ボンッ…プシュー……


 シルフィーナは顔から火を吹いたように真っ赤になり俯いた。


 「もう!そんなに笑わないで!!」

 「おっいいじゃんかーその調子その調子!」


 みんなの笑い声が辺りに響き渡っていた。




 翌朝――。


 「何やってるの??」


 ミオは朝早く目覚めた。シルフィーナもかりんも、テオもまだ眠りについている。

 宿屋に泊まった魅夜達は女の子チームと魅夜に別れ別々の部屋に入った。

 ミオが目覚めた時、ふと隣の部屋から魅夜の気配が感じられなかった気がした。昨日の事もありなにかあったのではと部屋へ行ったら案の定魅夜はいなかった。


 (どっかいったのかな?)


 宿屋の外に出るとまだ日の出の真っ最中で人影はなかった。

 ミオは中に入り、裏庭に通じるドアを開ける。

 そこには手を合わせ立ち尽くしている魅夜の姿があった。


 「何してるの??」

 「ん?あぁミオか。これは精神統一ってやつだ。自分の体内にある気を感じコントロールする練功の1つさ。まぁいわゆる修行ってやつだ」

 「気??」

 「気ってのは、まぁ簡単に言うと力の源みたいなもんだ」

 「魔力みたいな?」

 「似たようなものだけど厳密には違う。俺たちのいた世界にも沢山の本があってな、気は人の体内に存在するもので、逆に魔力のような魔法を使う力ってのは外からのエネルギーを変換して使用するって感じらしい」

 「よく分かんないけど…違うってことだけは分かった」

 「ははッ。俺は魔法も使えないみたいだからな、こうして鍛錬している訳だけどももっと最初からちゃんとやっとけば良かったよ」

 「魅夜は強いよ?」

 「今のままじゃダメだ。この世界に来た時は時が来るまでゆっくりすれば良いやなんて思ってたけど、厄介事が舞い込んできたからなー」


 魅夜はその場に座り込んでからゴロンと空を仰ぐように寝転んだ。


 「今じゃ、魅夜は立派なお尋ね者だもんねー?」


 ミオは魅夜の横まで来ると隣に座った。


 「荷物も増えたしな」

 「それもしかして、私の事?」

 「他に誰がいるんだよ」

 「ひっどーいッ!」


 「「ぷっあはははは」」


 2人は同時に笑いだし同時に笑いをやめた。

 おもえばこうしてゆっくり話すことは初めてだったかもしれない。この世界に来てなんだかんだ忙しなかった。

 間違いで連れてこられいきなりモンスターに襲われ、騎士隊にケンカをふっかけ、大男からミオを助け、ドラゴンと戦う。

 その先だって面倒事は増えるばかりで穏やかに帰れる時を待つ事はもうほぼ不可能に近かった。


 「魅夜、ありがとう」

 「ん?」

 「助けてくれて」

 「大したことしてないよ」

 「それでも…ありがとう」

 

 ミオは魅夜を見ながらニコッと笑った。


 「んじゃあその体で返してもらおっかな」

 「え?」

 「それくらい良ーだろー命の恩人だぞー!」


 魅夜は両手で指ををわしわしと気持ち悪く動かした。


 「もー!人が真剣な話してるのにー!!」

 「あはははー俺そう言うの苦手なんだよー」

  「もうッ!でも…ほんとにしたいんだったら……イイヨ」


 ミオは顔を赤らめながら胸をズイッと突き出した。


 「ばーか冗談だよ。どーせならあのバカ女神みたくもっとおっきくエロくなったら揉んでやるよ」

 「誰がバカ女神ですかー!!」


 魅夜達の周りが明るく光ったと思ったら例のバカ女神、リアがそこに現れた。


 「現れやがったなバカ女神。お前が間違ったせいで俺はもうめちゃくちゃだぞ」

 「そ…それは言わない約束で…♪」

 「んで、なんの用だよ」

 「それよりも……」

 

 リアはミオの方に目を向ける。

 ミオはまだ顔を赤らめ目を瞑ったまま胸を突き出しぷるぷるしていた。


 「いつまでやってんだ…よッ」


 魅夜がミオのおでこを軽くデコピンすると、「あいたーッ!?」と言っておでこをおさえた。


 「なにするのーッ!」

 「良いから、ほれ」


 と言って顔でリアの方向を示した。


 「あれは…??」

 「あいつが間違って俺を召喚したバカ女神だ」

 「あーバカ女神さん」

 「誰がバカ女神ですかーッ!!」

 「さっきとリアクションかわんねーぞ」

 「そ…そんなことはどうでも良いんですッ!」

 「なんだ、なんか用か?」

 「大変なんです!!」

 「だから何がだよ?」

 「あたし間違って魅夜さんを召喚したじゃないですか、そのせいか魅夜さんは魔法を使う事が出来ないんです!!」

 「………………」

 「そもそもこの世界の召喚に選ばれる人間は魔法や剣なんかの素質を持った人が選ばれるから魅夜さんはちょっと特殊とゆーか」

 「………………」

 「あれ?どうしたんですか?あたしの可愛さに見とれてるんですかー?☆」


 魅夜は全身をふるふるふるわせていた。


 「……だよ……」

 「え?」

 「んなこたーもう分かってんだよーこのクサレ女神ィ!!」

 「ひゃうんッ!?」


 魅夜は最初出会ったときと同様リアの胸をむんぎゅと掴むと荒々しく揉みしだいた。


 「ロクに説明もなしにさっさとどっか行きやがったうえに今更情報が古いんだよッ!剣も魔法も使えない事なんかとっくに分かってんだよこっちはーッ!!」

 「きゃうんッはぅーッ☆そんなも…んッ…揉まないッ…でぇ…形ぃ…んッ♪…かわっちゃ…うーッ♪」


 「なに……あれ?」


 騒ぎを聞きつけたかりん達も裏庭で合流し、全員が揃った。




 「さぁーて、ちゃんと全部説明してもらおーか」

 「しょうがないですねぇそこまで言うなら説明しましょう」


 魅夜は無言で両手を胸のあたりまで持ち上げ、わしゃわしゃと胸を揉みしだくポーズをした。


 「ひっ!?分かりましたよぅちゃんと説明しますから!!」

 「分かればいんだよ」

 「ちゃんとこの世界の事から説明しますね。この世界はアースガンドランドと言う世界です。今そこのグランファード地方にいます」

 「その説明は私たちは聞いたね」

 「そうだね」


 かりんと響はすでにそういう話は聞いていたらしい。と言うことはあの一条ケイスケもすでに知っている事だろう。


 「この世界は気の遠くなるような遥か昔、ゼ=ヴォースという異次元から生まれしものが創造したとされています」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る