遺稿 六

 無個性な原稿用紙に、忙しなく文字が書かれていく。

 既にいくつか書き終えているようで、乱雑に積み重なった紙がその傍に置かれていた。

 どれもこれも、水に濡れたような跡がある。


『……っ。…………っ。………………っ』


 彼は泣いていた。

 鼻を啜りながら、嗚咽を漏らしながら、彼は文章を書き続けた。

 書かなければ、いけないから。

 ずっと、待たせてしまったから。

 期待に、応えないといけないから。


『──た』


 彼は何度も、その言葉を口にした。

 掠れた声で、何度も、何度も。


『──った』


 懇願していた。

 うんざりしていた。

 もう、疲れてしまった。


『──かった』


 そして彼は筆を止めた。

 ようやく全て書き終えた。

 積み重ねた原稿用紙の束を見つめ、


『──なかった』


 忌々しそうに見つめ、


『──まなかった』


 悔しそうに見つめ、


『──すまなかった』


 申し訳なさそうに見つめると、

 引き出しからハサミを取り出して、

 そして、そのまま、自分の首目掛けて──

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