第4話

「私は、咲子お嬢様を守りたかったのです」


 取り乱した事を謝ってから着座し、机の上のどこでもない場所を見つめながら白鷺は話し始めた。


から、お嬢様は酷い扱いを受けていました。気に入らないと殴られ、時には立てなくなるまで蹴られていました。彼女は隠れて一人で泣いていました」


「DVってやつっすか?」


 黒岩の質問に、白鷺は頷いた。


「私は、激しく暴れまわるあの男を取り押さえることができないのです。主人を押さえつける行為というのは、“危害を与える”行為に等しいと設定されています」


非攻撃AOプログラムか」


「ええ。ですがそもそも、あの男は私には手を出しませんでした。私は多重合成オリハルコン製ですから、人間が痛いだけです。私は、傷ついたお嬢様の手当てをするしかできません」


「夫に対して、お嬢様はなんて言ってたんだ?」


「なにもおっしゃりません。ですが、お嬢様の身体の痣は治るたびに新しく増え、日に日に悲しみに打ちひしがれるようになりました」


「ひどい……」


 咲子は取調室では怯えきった表情をしていたが、調書や写真を見れば穏やかな笑顔が印象的だ。そんな彼女が殴ったり蹴ったりされていたなど、考えたくもなかった。


「白鷺。だからを殺したのか?」


「そうです。最初にも申し上げましたが、私は、咲子お嬢様を守りたかったのです」


 白鷺はまっすぐに青木を見つめた。


「で、お前が証拠を隠したんだな?」


 青木の追求に、黒岩は「え!?」と声を上げた。


「青木先輩、どういうことですか?」


「そうだよな、白鷺?」


 二人の視線を受けて、白鷺はしばらく黙ったあと頷いた。


「――はい」


 黒岩はわけがわからず白鷺と青木を交互に見るしかできなかった。


 相変わらず蝉がミンミンと鳴いて耳にうるさい。取調室は時間が止まったかのようだ。

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