第3話

「青木先輩、もういいじゃないですか。白鷺がやったってことにして、廃棄処分にしちゃえば」


 取り調べを終えて昼もとっくに過ぎた頃。ざる蕎麦をすすりながら黒岩は愚痴をこぼした。


「『私がしました』の一点張りで、まったく進展しないし。もうこれ以上は無理じゃないですか? そもそも人じゃないし、動機も感情もないんですよあいつには」


 ずるるる、と蕎麦を勢いよく啜って飲み込むと、黒岩は眉をひそめた。


「人だったら、あんな残忍な殺しかたはできません……うえ、思い出しちゃった」


「お前も大概アホだな。食事中に仕事の話は野暮だぞ」


「すみません」


 しかし青木はいまだに引っ掛かりを覚えていた。


 残忍な殺し方をする必要が、どこにあったのかがわからない。あの、清廉潔白そうな白鷺というロボットが、何故あそこまでのことをしでかしたのか。


 それは、単なるデータの損傷とか、不具合バグではないような気がしていた。


「白鷺のいう、ご主人様シュプリームのほうを当たってみるか」


 婦人警官が取り調べを進行しているというお嬢様こと、赤嶺咲子あかみねさきこの現状を探るべく、青木と黒岩の二人は午後からはそちらの取り調べを傍聴することにした。


 *


「こっちもこっちで収穫なしですかねー」


 二人が見る限り、咲子は精神的に衰弱しているようだ。婦人警官の質問にまともに答えることもできずにいる。


 それでもはっきりと口にしたのは、事件は白鷺がやったと言うことだけだった。


「もう二人とも認めてるんだし、犯人は決定ですね」


「そりゃ、そうなんだけどさ。白鷺がっていたとして、動機はなんなんだよ、動機は?」


「そんなこと自分にはわかりませんって。俺は、もうバグかなんかだと思いますけどね。動機もなにもないんじゃないですか?」


 そんなことはない、と青木は納得できずにいる。ロボットだから、感情がないからと言って、果たして本当にそうなのか?


 ロボットが感情を持たないという証明はできているのか? プログラムだと言い切れるのなら、人間の感情とプログラムはどう違っているんだ?


 青木の勘は、真実はきっと違うと告げていた。


「ここは一つ、揺さぶってみるか」


「ロボット相手にですか!? 人間ならまだしも、あれは証拠品ですし」


 渋る黒岩を引き連れて、青木は取調室に白鷺を呼んだ。そして開口一番、ブラフを展開させた。


「赤嶺お嬢様が、口を割ったぞ」


 白鷺は瞬きをする。彼の目の奥に、青木は微かな動揺を感じ取った。


「自分がやったと言っている」


「それは嘘です。お嬢様はなにもしていません。私がやりました」


「いいや、もうそういう話で進んでいるからな、準備が出来しだい起訴される」


 白鷺は立ち上がって机を叩いた。


「そんなはずはありません!」


 あまりにも人間らしい行動に、黒岩は目を見開いた。青木は「やはりね」と溜息を吐いた。


「私が、私が殺したんです。お嬢様を守るために!」


 やっと口を開いたな、と青木は椅子の背もたれに背を預けた。

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