真珠が選んだ嘘

ティラミス信者

.

例えば、生まれる家が違かったら?

きっと、もっと裕福な暮らしができていただろう。


例えば、出会う友人が違かったら?

きっと、もっと別の世界を見れていただろう。


例えば、選んだ学校が違かったら?

きっと、もっと多くの知識を得られていただろう。



例えば、例えば、例えば。



そう何度も考えたって、それは結局たらればで、ただの現実逃避でしかなかった。

分かっていても考えてしまうほど、この残酷な喜劇にうんざりしていたんだ。



友人は言った。

この世に神様はいる、と。


なら、どうして救われない者がいるのだろう。

尽きるほどに涙を流し、枯れるほどに悲鳴をあげたって、その神様とやらは救ってくれやしなかった。

手を差し伸べることも、糸を垂らすことだってしてくれない。


つまりはそういうことだ。

誰もが崇める存在も、一番可愛いのは自分自身。

どれだけ日陰から名を呼んだって、汚いネズミには目もくれない。

臭いものに蓋でもしたつもりなのだろうか。

地を這う弱いものにぐらい、たった一度でも、助けてくれたっていいじゃないか。


だから、言ってやったんだ。

神様なんて、名ばかりのただの化物だ。

そんなものを敬い信じるだなんて、馬鹿のやることさ。

そう言ったときの友人の顔は、果たしてどんなものだっただろうか。

月も照らしてくれぬ夜のことだ、もう忘れてしまったな。




例えば、髪の色が違かったら?


例えば、瞳の色が違かったら?


例えば、声の高さが違かったら?


例えば、考え方が違かったら?


例えば、生まれる世界が違かったら?


例えば、生まれることがなかったら?



例えば、例えば、例えば。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真珠が選んだ嘘 ティラミス信者 @tira_08

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る