第2章 恋愛嫌いの隠者と、恋愛脳な死神
第8話 あまのじゃくな死神さん
憂鬱な気分で部室のドアを開ける。
昨日まではお気楽だった部活。今日からは面倒な課題に取り組まないといけないわけで。考えるだけで、気が重い。
「さて、今日もタロットで活動内容を決めるぞ」
「愚者さん、わたしに引かせてよぉ!」
「美輝、ごめん。今日は僕が引いていいかな?」
「おっ、慎司さま。珍しい。そんなに木になりたいの?」
美輝が目を輝かせて立ち上がる。
それだけで巨乳が縦揺れした。金髪美少女の緊急乳揺れ速報とかバカ売れしそうだな。
つまらないことを考えてみる。
だって、現実逃避したいんだよぉぉっ。
「おお、僕が部長だからな」
心にもないことを言いながら、カードを引く。
裏返す。馬に乗った骸骨が、鎌を携えているカードだった。しかも、逆さま。
「げっ、死神の逆位置じゃねえか」
よりによって、一番見たくないものだった。
「隠者くん、ボクが君を占ってしんぜよう」
「……」
「死神の逆位置を引いた……自分を変える勇気が持てないんだね。今のままじゃ、同じことを繰り返すぞ」
夢紅が上から目線で説教してくる。
「くっ」
図星だから文句は言えない。
昨日、自分なりに考えて、
が、一晩経ち、後悔していた。
自分で依頼を受けておいて、みっともないよな。
なのに、部室に来ようと思ったら、足が重くなったわけで。
我ながら情けない。
ため息を吐いていたら。
「邪魔。黒いG以上に迷惑な虫ね」
冷え切った声が後ろから聞こえた。一瞬、ロシアの冬山にいるような錯覚がした。
思わず振り返る。いた。死神が。
全身からピンク色を放って。
「
琥珀色の瞳をとろけさせて。
「だとしたら、史上最悪の隠者シンジと呼ぶわ。青髪系無口ヒロインをオカズに自分を慰める、シンジくん以上のエロマンガ脳ね。エロマンガ島で現地妻全員とハーレムでもしてなさいよ。腹をかっさばかれて、○されるといいわ。誠くんみたいにな。妹に罵られて興奮するブタ野郎め!」
僕、隠岐
こいつ、言葉と態度、色が矛盾しまくってるぞ。
僕は引きながらも、横にどく。
「お、おう。邪魔して悪かった」
神白は僕の隣の席に腰を下ろす。
「ふん。あなたの周囲5キロにいたら、妊娠させられそうね。だって、あなた、精○をエアロゾルで撒き散らすほどの異常性欲の持ち主なんでしょ。本当ならシェルターに避難したいわ。でも、隠岐くん」
呆気に取られて反応できないでいると。
「あなたは、あたしのエロゲ主人公。特別に座ってあげなくてもいいんだからねっ!」
あれ? 神白さん、ツンデレになってません?
とりま、扱いにくい子である。
やっぱ、引き受けなければよかったな。
ここは夢紅たちの支援を期待しよう。
具体的には、女子同士仲よくしてもらって……。
なっ。
夢紅はタロットで現実逃避、美輝はガクガクブルブル。ふたりとも戦力にならねえじゃん!
仕方ない。
このままでは下校時刻になるまで、僕のメンタルが破壊され続ける。
僕は勇気を出して、攻めに転じることに。
「毒舌を吐くってことは、僕のことが嫌いなんだろ?」
「ふぇっ?」
かわいらしい声が神白の戸惑いを示している。ころころ変わる色からも焦りを感じられた。
「僕がエロゲ主人公でいいのか?」
「別に、あなたじゃなくてもいい……けど、下心むき出しのおち○ぽ野郎にエロゲ主人公を頼んだら、あたしの処女が危ないし」
エロゲ主人公はエロ担当じゃないのかよ!
ツッコミたいが自重する。僕が神白とやりたいと思われたら、心外だから。
ところで、さっきから神白さんが紫です。色彩心理学では、紫はエロスな印象を与える色とされている。実際に、紫は勝負下着の定番でもあるし。
色彩心理学。色のイメージと人間の心理を研究する心理学の一分野。
色が人間に与える影響は大きい。たとえば、アメリカの大統領選挙では候補者が使うネクタイの色にも神経を使っているという。
僕が見える色も、色彩心理学における色のイメージとかなり近い。
色彩心理学と僕の経験から導き出した答え。それは、神白冷花がムッツリスケベだということ。いや、エロゲ好きを公言してるし、ムッツリじゃないか。
「あくまでも僕は神白さんを手伝うだけ。エッチなことをするつもりはないし」
いちおう平和的な解決を試みつつ。
「僕、恋愛は嫌いだからね」
自分の主張もしたい。
すると、神白さんは無言で、黒くなった。
黒は寂しさを意味する。僕が変態じゃなくて、寂しい。そう読めます。
恥ずかしいので、話題を変える。
「だから、僕はなにをすればエロゲ主人公になれるの?」
「エロゲ主人公はエロゲ主人公よ。ラノベ主人公じゃないわ」
「当たり前じゃねえか!」
「うっ」
思わず突っ込むと、神白はバツが悪そうに頭をかく。
「それがわからないと、支援ができないと思うんだよね」
僕が考える最強のエロゲ主人公を演じても、神白の求めるエロゲ主人公とは限らない。外れていれば、彼女は満足しないだろう。
しかも、僕はエロゲをしない。適当にエロゲ主人公をしたところで、神白の期待に応えられるはずもない。
「とりあえず、理想のエロゲ主人公について教えてくれないか?」
「ん。なら、語らせてもらうわ」
琥珀色の瞳が光った。
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