絶対に恋をしないラブコメ
白銀アクア
第0章 愛してない、バンザイ。
第1話 好き(愛してるとは言っていない)
「慎司さま、だーいしゅき」
「ボクもだぜ。隠者くん、超愛してる」
いきなり、ふたりから同時に告白されたよ。
普通の男子高校生だったら、そう思う展開かもしれない。
しかし、僕、
「はいはい、ふたりとも僕が好きなんだね」
棒読みで返すと。
「このこの~。ボクのパイオツでおち○ちんがド級変身してるくせに」
右手側にいた少女が、これ見よがしに身体を揺らす。ほどよく膨らんだ双丘が僕の腕に押され、形を変える。
好きと言われても動揺しなかったのに、さすがにドキドキしてしまう。
明るい茶髪のショートカットが、活発で朗らかな印象を振りまいている。クリクリした目は強烈な意思の強さを感じさせる。
身長は低くて、子犬のように小柄だ。ただひとつ、胸だけは平均より大きめではあるが。
夢紅は好きでもない男に胸を当てて、無邪気に微笑んでいる。
無鉄砲で、常識から解き放たれた自由な奴だ。
ここは部室だから問題はないが、公共の場で夢紅の相手をしていると疲れるんだよな。突飛な発言に振り回されるし、平気で抱きついてくるし。
女子がおちん○んとか言ってるが、突っ込んだらやぶ蛇になりかねない。
「どう、どう? ボク、Dカップだけど、柔らかさならヘビー級なんだぜ!」
ヘビー《重い》ってことは硬そうだな!
心の中でツッコミを入れる。
まあ、冬服のブレザーとブラジャーが間にあっても、弾力を感じる。相当に柔らかいんだから、ネーミングを考えろよ。
バカの相手は、これぐらいにして。
「ねえねえ、慎司さま。放置しないでよぉぉぉっ!」
反対側から別の少女が抱きついてくる。
まず、目を惹くのは、ロールにした金髪だ。部室の古ぼけた蛍光灯ですら、彼女を煌めかせる。
肌は雪のように白い。琥珀色の瞳は揺らめいていた。
繊細な人形を思わせる、完璧な美少女だった。
まさに、太陽のようなリア充美少女が、僕の腕にしがみついている。
あいかわらず、すげえな。
僕の左腕が谷間に埋まっているよ。自称Dカップの夢紅が雑魚に感じられる。さすが、美輝さん。マジでハンパない。
美輝は上目遣いで僕を見る。いまの彼女は黒だ。
「慎司さまが反応してくれない。わたし、魅力ないのかなぁぁっ……ぴえん」
「いや、今日も美輝はきれいだぞ」
僕が頭を撫でると、美輝はえへへと微笑む。
彼女の上半身が動いて、僕を挟む胸が形を変える。
「なあなあ、隠れパイオツ聖人よ。両手に花ならぬ、両手に乳はどうだい?」
「べ、別に」
僕が気のない素振りをすると。
「ふーん。愚者さん、わたし傷ついたんだけどぉぉっ。マジで、ぴえん」
「奇遇だね、太陽ちゃん。さっきからボクの豆腐メンタルはボロボロだし。なお、豆腐と胸どっちが柔らかいのかな?」
正直、天国だが、顔に出すわけにもいかない。さっきから平静を装っているが、男子高校生の肉体が元気になりかけている。夢紅に言わせれば、ド級変身か。
ラブコメマンガの主人公よろしく逃げたい。が、それも難しいな。
夢紅も美輝も明るくて、クラスでは陽キャである。
けれど、本人たちが言うように、ガチな豆腐メンタル。かなり傷つきやすい。
僕が逃げたとする。彼女たちは本気で傷つく。全財産賭けてもいい。
先週も軽くあしらって泣かれたし。パフェ食べ放題の店に連れていかれ、余計な出費をしてしまった。次の収入まで2週間、1000円しか使えないんだ。これ以上は勘弁してくれ。
「ふたりとも、マジでかわいいぞ」
両手にパイオツ状態を甘受する。適当に褒めて、満足させよう。
まあ、僕の息子は優秀だ。親の意思に反して、自己主張なんかしないはず。親バカだな。
冗談はさておき、夢紅たちなら問題ない。
ふたりとも、たんなる遊びなのだから。
僕に恋愛感情を抱いていないのだから。
子どもが懐いた大人に抱っこされたがるようなもの。子どもを相手に男の本能を発動させたら、変態だ。ふたりの女子高生に同じ理屈を適用させる。気分が落ち着いてきた。
しかし、彼女たちが僕を恋愛対象と考えてなくて、ホントに助かった。
恋愛感情は重い。重い気持ちは時によって凶器になる。いわゆる、ヤンデレだ.対応次第で怖ろしいことになる。
そこまで重くはなくても、恋は恋。どんな面倒ごとに巻き込まれるか。
恋愛関係のトラブルだけは、絶対に勘弁だ。絶対に。マジで嫌だから、『絶対』を2回使った。
その点、彼女たちの『好き』は、『LIKE』である。
夢紅たちが僕のことを愛している。そんなことあるわけがない。とある理由により、断言できる。
遊びだからこそ、イチャラブを楽しめるのだ。
そんなことを考えて、ご子息の覚醒を押さえ込んでいたら。
「ねえねえ、タロットで今日の活動内容を占ってみた」
「愚者さん、なにが出たのぉぉっ?」
「コアラごっこ」
夢紅が僕に抱きついたまま、タロットをしていた。嫌な予感しかしない。
「わたしたちがコアラ役で、慎司さまがユーカリ役ってことじゃん」
「おうよ。先に離れた方が負けな」
「うん、いいねぇぇ。勝負は下校時間までだよぉぉっ」
マジかよ。
また、ユーカリ役ってか。週に3回はやってる気がする。いかさまなんじゃね。
「学芸会の演劇よろしく、木の役をやればいいんだな?」
いちおう訊いてみる。
が、現実は甘くなかった。
コアラ役の2名は強く僕の腕にしがみついている。さっきよりパイ圧が強い。僕の腕に押されて、形を変えてますよ。
「マジでコアラごっこを始めやがったし」
「んにゅ。ボクちゃんコアラ。コアラはユーカリを離しましぇん」
「わたしも。慎司さまはイケてるユーカリ。死んでも離れないんだからぁぁっ」
まだ下校時間まで1時間以上もあるじゃん。
これ、いちおう部活なんだよな。ろくに活動していない対人支援部だけどさ。さすがに、女子と抱き合っているのはマズいんじゃ。
まあ、彼女たちのメンタルフォローも活動内容に含まれてはいる。とはいえ、教師にバレても説明できないんだけど。
せめて、手が空いていれば、本でも読めるのに。
「隠者くんさー、ボクたちだけを見てくんないかな」
「わたしたち、胸がドキドキしてるよぉぉ。ユーカリが恋しくて」
両横からぐりぐりと身体を押し当ててくる。感触もヤバいが、甘美な芳香も刺激的だ。夢紅はレモン系のさっぱり、美輝はミカン系の甘味。ふたりの味が混ざり合って、脳がとろけそう。
これ、苦行なの?
ホントに君たち僕のことが好きじゃないんだよね?
疑った僕は目をこらす。
うん、そうだよな。
やっぱり、夢紅と美輝からはピンクを感じない。僕に恋愛感情を抱いていないのは明白。
ところで、なんで夢紅たちの気持ちを断定できるかというと――。
僕には見えるから。
人間の感情が。
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