彼の成長の物語

荘園 友希

プロローグ

彼のことはきっと嫌いではなかったと思う

決して明るいタイプではないし、グループの中に介入してくるタイプではなかったけれども、それでも嫌いではなかった。当然好きでもないのだけれど。

誰かが誰かを好きになるのも勝手なら誰かを嫌いになるのも勝手で、全く本人の意思とは反していると思う。私も誰かに嫌われているんだろうし、誰かに好まれているんだろう。

大学生になってみて初めて気づく。社会とは余りにも私たちとは無関係に流れていて、私たちの知らないうちにすべてができていて、それでいて、すべてが成り立っていた。どれもが絶妙なバランスで自立していて、指で少しはねてしまえばたちまち形は崩れてしまいそうな脆さなのにそれでもしっかりと成りたっていて複雑に関係しあっていた。たとえば私たちの知らないうちに世界では今でも戦争が勃発していて、秒針が進む度に誰かの命が奪われて消えていく。特に私たちのような国では平和ぼけしているように思える。無作為に人を殺すことなんてないし、人の命の重さを考えさせられること自体がそんなにない。こんな壮大なことではないけれど、私たちの生活も誰かの意志が必ず介入していて、そんな意志など知る由もなく私は生活しているんだろう。

 私はやる気のない学生で建築学科に所属していた。一年後は卒業だけれど、自分が就職して今までやってきたことは到底使えるとは思わないし、通用するかどうか不安立ったりする。今年は卒業研究に向けて研究配属があった。熱心ではない私に何の研究ができるかわからないけれど人の導線と建築空間の研究にほんの少し興味があっただけで研究室を選んだ。私が彼のことを唐突に思い出したのは研究室決めのときの先生の話に起因している。


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