案件1 D国、対オーヴァード用装備30セット

AM8:15 D国ホテル内

 目覚ましが鳴り響くホテルの一室。その部屋にはベットやテレビ、小さい冷蔵庫が備え付けられていた。そんな中、うめき声をあげながら横たわっていた人が起き上がる。

 絹のような白髪、人形のような肌、青い瞳、愛嬌のある顔。目を擦りながらうるさい目覚ましを止め、伸びをしつつ冷蔵庫の扉を開ける。その冷蔵庫の中は空だった。


「あ?…なんにも無い。水どうしろって言うんだよぉ、たく」


 乱暴に頭を掻くその姿は年若い女だった。雰囲気からはそう感じられないが。


「今日は…えっと、D国に1件か。あのおっさんたまにメンドくさいんだよなぁ」


 眉を八の字に歪めながらスーツに着替え、護身用の銃をアタッシュケースに収め、先ほどまで寝ていた部屋から堂々と出た。扉の近くには彼女の使用人が立っていた。


「お嬢様。本日はD国の特殊部隊詰所で対オーヴァード用装備…30セットの取引です。中々普通ですねぇ」

「今までが非凡過ぎたんだ。

「仰る通りですお嬢様」


 使用人がアタッシュケースを女から受け取ると、女は前を向いて目的地へ歩き出し、その後ろに使用人がついていく。ふと、女が空を見る。空はこれからの事を暗示するような、灰色の雲に覆われていた。


「今日の仕事はひと悶着ありそうだなぁ」

「ですねぇ。貴方が関わるといつも何かが起こります」

「はァ?私がなんかしてるようにぃ、聞こえるじゃろがー!!」


 使用人の何気ない一言に猫みたいに飛びかかる女。彼女の名はクレア・ランカスター。表の顔は世界を駆ける武器商人であり、裏の顔はUGN中枢評議会、評議員の一人である。

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