第8話 字 転

あのカウンター席に座り、涼しい顔をしている男は、ジゴロだ。



数多の美女がこの店を訪れるが、男の方から声をかけることは一度も無い。



この日も、一言も話すこともなく、バーを出る。



男は、ニヒルに笑い、駐車場から出る為に料金自動精算機に駐車券を入れる。



しかし、届かない。



「仕方ない。ドアを開け外に出るか」



地面が凍結し滑って転んだ。頭をゲートバーに打った。



「大丈夫ですか?」



また、今日も男に優しく声掛けしてくる美女が…



「助けてくれたお礼に一杯ご馳走させてください」



「いえ、お気持ちだけ」



妄想し過ぎるジゴロの後から後続車のクラクションが鳴り響く。



ジゴロは慌て再び滑って、転ぶ。



助手席から妻が「しょうがないわね」と精算してくれる。



妻も一緒に滑って転んだ。



笑い転げた。



コロ コロ 笑い転げた 地を


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