第5話 分かったこと
「おはよー!ヤバい遅れちゃうー。お母さん、私の服どこ?」
「おはよ。ほら、そこにあるでしょ。まったくもう。そんなんで、大丈夫とか、良く言えたよね」
「そんなことはいいから。パン、パンちょーだい。あぁスープ冷めてるしぃ」
「あんたが寝坊するからでしょ」
わたしが急いで朝ごはんを食べている間、お姉ちゃんはのんびりテレビを見てる。すでに準備は全部終わっているみたいだ。
お姉ちゃんは、カンペキな人間なのかも。何でも持ってるように思える。何でもちゃんとできる。ダメな所があっても、許してもらえる“あいきょう”というもので、ダメじゃなくなる。
ズルいじゃん。顔は似てるって言われてるわたしには、どうしてないんだろう?“あいきょう”ってやつ。何が違うんだろう?あきらめてはいたけど、やっぱり不公平だと思うこともある。わたしは足まで踏まれているのだ。
失敗が多くて、言われた事を上手に出来なくて、怒られてばっかりだ。
そんなことを考えているとまた、お母さんに怒鳴られる。
「あかり!いい加減にしなさいよ!寝坊したのにそんなにのんびりして。大丈夫なの?時間見て行動しなさいよ!」
「はぁ。はぁ~い」
「何なのその返事は!」
「はい。ごめんなさい。ご馳走さまー」
「さっさと歯、磨きなさいよ。まったく、いつになったらちゃんと出来るようになるのよ」
わたしばっかりいつも怒られる。
「分かってるってば。もう、うるさいなっ」
そしてやっぱりバタバタしながら学校に行く。怒ったまま、今日はお姉ちゃんの前を歩いてずんずん進む。お姉ちゃんが付いて来ているか、確かめるような事はしない。だって、お姉ちゃんの友達がいつものように集まってきて、楽しくおしゃべりしてるのが聞こえるもん。わたしが振り返って確かめる必要などないのだ。
お姉ちゃんは、カンペキなのだ。うらやましいと思う。
“だったら、どうして私の足を踏むの?”
けれども、そんな事以上に、お姉ちゃんがみんなを癒す人気者でいる事が、わたしにとっては大事な事なんだ。
足を踏まれる事の嫌な気分と、お姉ちゃんが人気者でいる嬉しさの間で気持ちは揺れ動くが、結局最後はお姉ちゃんの笑顔が全てを許してしまう。お姉ちゃんという存在が、全てを幸せにしてくれる。
***
「あおい、この前のテスト散々だったのよ。もうちょっと勉強しないと、中学行ったら追い付けなくなるからね。ねえ、パパからも言ってやってよ。今の塾だけじゃ足りないかも」
この日、めずらしく早く帰ってきたお父さんと、夕飯を一緒に食べていた。お母さんがお姉ちゃんのテストのデキが悪かったのをお父さんに押し付けようとしていた。
「あぁ?散々ったって、それほど悪かないんだろ?」
「うん。でもいつもより、ちょっと悪かった」
そう言って困りながら笑うたお姉ちゃんを見て、お父さんは言う。
「まったく、あおいは得だよな。良かったな、女の子で。お前はちょっとくらいテストが出来なくても大丈夫だよ。なー。」
「え?」
お姉ちゃんは拍子抜けしたような返事をする。
「ちょっと、もう、それじゃあ困るわよ」
お母さんは怒りきれず、あいまいな感じだ。
これが私だったら、間違いなくもっと怒られているはずの所だろうが、やっぱり色々許される。私だったら“やったね”と思う所だろう。でも、お姉ちゃんはどうも違うらしい。
いつもより強めに踏まれている足の痛みで、これはお姉ちゃんの本当の気持ちなんだ、って気が付いた。
お姉ちゃんの顔は困った笑顔のままでも、きっとお父さんとお母さんには、可愛らしいだけの笑顔に映ってるんだろうな。
そうだ。誰も気付いてないんだ。本当のお姉ちゃんの気持ちなんて。ほんわか優しいニコニコ笑顔の裏側にある、本当の気持ち。
妹の足をこっそり踏んづけるような、ぬいぐるみを踏んでぺちゃんこにしちゃうような、そんな気持ち。
“あいきょう”によって、全てが許されてみんなに可愛がられる。それはお姉ちゃんにとって、幸せなことじゃないんだ。きっとそうだ。
それなら、わたしが足を踏まれることは、仕方のないことなのか?
本当のことが分かったところで、何かが変わるわけじゃない。
わたしは、これからのことについて考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます