神父の見習い(2)
「五教科の答案が返ってきた」
翌日。
だだっ広い図書室の片隅で、ムラコフとマラスの二人は、机越しに向かい合っていた。
ちなみに今は、答え合わせという名目の、愚痴り大会の真っ最中である。
「お前、ちょっと答案見せてみろ」
「ん」
「法学、99点。幾何学、97点。天文学、97点。音楽、98点。ラテン語、100点。――って、おいおい……」
ムラコフの点数を見たマラスは、机に両手を突きながら立ち上がった。
「ラテン語が満点って、お前いったい何者なんだよ!」
「さあな。ラテン人?」
「ラテン人なワケがあるか! ふざけるなっ!」
「怒るくらいなら、最初からそんな質問するな」
「……なあ、ムラコフ。お前ってヤツは、本当に特殊な人間だよな……」
深いため息をついた後、マラスはようやく椅子に座り直した。
「そんだけ優秀なくせして、性格が曲がりすぎというか……。いいや、優秀だからこそ性格が曲がってるのか? どっちなんだ……」
「何だと? それは心外だな。俺のこの性格の、いったいどこが曲がっているんだ?」
「そういう部分だ、そういう部分」
マラスは澄まし顔をしているムラコフを、真っ正面から指差した。
「学内一の優等生っていったら、普通はもっと性格ができてるもんだろ。『みんなで仲良く協力して、明るく過ごしやすい学校を築こうじゃないか、ははは』――みたいなさ。それなのにお前ときたら、他人に無関心というか、付け入る隙がないというか、とにかく飄々としすぎなんだよ!」
「ふん、飄々でおおいに結構だ。みんなで仲良く協力なんて、冗談じゃないな」
ムラコフは鼻を鳴らすと、机の下で足を組み変えた。
「そもそもここで生活していること自体、俺にとっては不本意なんだ。さっさと神父なり司教なりに叙階されて、もう少し華やかな生活を送りたいところだな。こんなつまらない見習いの身分なんて、はっきり言ってもう飽き飽きだ」
「うわっ、正直だなー……」
「当然だ。男は出世してナンボだ」
特に言い憚ることもなく、ムラコフは堂々と言い切った。
「だからこそこうやって、面倒臭いながらも優等生を演じているっていうのに、一向に院長の目にとまらないのはどういうことだ? 俺はいったい、いつ神父になれるんだ?」
「いや、俺に聞かれても知らないけどさ」
「まったく、やってられないよな。マラス、答え合わせはもう止めだ。そろそろ趣味の時間に移ろう」
「趣味の時間?」
「ああ、趣味の時間だ」
そう言いながら答案を片付けるムラコフに、マラスが恐る恐るという感じで質問した。
「ちなみにムラコフ、お前の趣味って?」
「乗馬とチェスとダンスとバイオリンとフェンシングというのは建前で、実際は酒が趣味だ」
「……すまん、もう一度」
「乗馬とチェスとダンスとバイオリンとフェンシングというのは建前で、実際は酒が趣味だ」
「……」
マラスは額に手を付いて、もう一度深いため息をこぼした。
「わかった、ムラコフ。お前のその性格に乾杯しよう」
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