第121話 絶望の果てに



 ――――漁師達



 更に進化した小型化け物とラゴス達の戦闘が始まるとなって、ラゴス達ばかりには任せていられないと、漁船で見張りに出ていた漁師達の何人かは、戦場となった海域に残り、何か役に立てることはないかとその目を皿にしながら、ラゴス達の戦いぶりを見つめていた。


 その判断は、手元に銃があり銛があり……それらで戦うことが出来るはずだと、素材の回収なんかで役に立てるはずだと、そう思ってのことだったのだが、戦場に残った漁師達のほとんどがすぐに逃げなかったことを後悔することになる。


 甲殻というか体全体を鋭い形にし、所々を棘で多い、赤く変色した小型の化け物は……飛行艇と大差ない速度で動き回り、小型だけあって鋭い旋回をし……そうしながら飛行艇の機関銃の弾丸全てを弾いてしまっていたのだ。


 それ程の攻撃力はなく、火球を吐き出すこともなく、攻撃力自体は大したことないのだが、とにかく甲殻が堅く、それでいて体重が軽いようで、機関銃の弾が命中しても貫かれることなく、軽さに任せて吹き飛ぶだけで……かすり傷一つさえつくことがない。


 弾丸の勢いそのままに吹き飛んでもすぐに体勢を立て直してしまうし……一体どうやってあんな化け物を倒したら良いのだろうか。


 一応、無反動砲の爆発を受ければやられてしまうようで、改良されたという砲弾が発射される度に数を減らしてはいるのだが……それでもその数は圧倒的で、恐らくは飛行艇に積んであるだろう全弾を発射したとしても倒しきれる数ではなく……戦況は完全に絶望的な、勝ちの目が見えないものとなってしまっていた。


 飛行艇である以上は、機関銃で戦うしかないのに、それ以外の武器など存在しないに等しいのに、それが効かない。

 無反動砲が聞くとはいえ、製造が難しく、連射も効かない。


 そんな状況下でラゴス達は、それでも諦めることなくエンジンを唸らせ、飛行艇を飛ばし……青い空を縦横無尽に飛び回っていた。



 ――――ラゴス



「くそったれ!! せめて甲殻にヒビでも入ってくれりゃぁ勝ちの目が見えるんだがな!!」


 そんな声を上げながら、飛行艇を懸命に旋回させる。


 敵が来たとなって出撃して……全く予想もしていなかった機関銃が通用しないという事態に陥って……。

 俺はただただ声を上げながら敵から逃げ回ることしか出来ていなかった。


『もーーー! 何なのこいつらはー!!

 せめてこっちの燃料がそうなるように、スタミナ切れとか起こしてくれないのかなぁ!!』


 後部座席で改良型の無反動砲弾を撃ちまくり、また持ち込んでいたフレアガンまで撃ち込んで……それでも空を覆い尽くさんばかりの数となっている化け物達を前に、アリスもそんな声を上げるしかないようだ。


 速くて硬くて軽くて。


 倒すに倒せず、逃げるに逃げられない。


 この速さ相手となると、どうやっても何処に逃げようとしても追いかけてくるだろうし……こんな奴らがナターレ島に行ってしまったなら、どんな惨劇が繰り広げられることか。


 ここで倒すしか無い、それしか無いのだが……倒す手段が存在していない。


 ランドウがあれこれと新兵器を用意したりもしてくれたようだが……こんな化け物に進化するとは、ランドウにも予想外だろう。


 詳細不明の新兵器が通用するかは……正直微妙なところだ。


 絶望はしたくないが絶望的で、諦めたくはないが手詰まりで……それでも俺達とクレオとアンドレアとジーノは、諦めることなく空を飛んで、飛びに飛んで飛び回り……機関銃を撃ち続けていた。


 撃ち続けていればあるいは目に当たるかも、口の中に当たるかも。


 そんな希望でもって連射し続けるが……効果の程は無いに等しく、弾丸と燃料が物凄い勢いで消費されていく。


 今までの相手とは違って速度も旋回力も半端じゃなくて、エンジンを休ませることが出来ていない。

 常にフル回転、マナストーンも悲鳴を上げているかのような音を上げていて……このままではいつか、限界が来てしまうことだろう。


「ああーーーくそっ、どうしたら良いんだよ、この状況はぁ!」


『……無理! 私にもわかんない! わかんないよ!』


 俺が悲鳴を上げると、アリスがそう返してきて……その言葉を俺は素直に受け止めることしか出来ない。


 俺にだって分からないし、神にだって分からないはずで……何処かで戦っているだろう知事や、その娘や、神官連中にだってこの状況でどうしたら良いかなんてことは分からないはずだ。


「こりゃぁ本土も駄目かぁ! 王様だってこんな状況どうにもできないだろ!!」


『私達が最後の人類の砦とか、そんなのは嫌だよ!!』


 二人でそんな悲鳴を上げて、上げながら飛行艇を更に旋回させ……猛スピードで追いすがってくる連中から距離を取るため高度を上げていると――――その時、一体全体何処から誰かが上げたのか、青色に光る信号弾が音を立てながら飛んでくる。


「青色!? なんだあの信号弾は!? 誰が上げやがったんだ!?」


『……青色? 青色ってなんだっけ……えっと、確か……。

 そうだ、飛行高度が重なっているから高度を上げろ……だ! 大型飛行艇同士の衝突回避のための緊急連絡用の信号弾……!

 え、なんでこの状況で青色?』


 アリスのそんな言葉を受けて俺は……丁度高度を上げていた所だし、素直に従うかと高度を上げ続ける。


 空に向かってまっすぐに、高度をひたすらに上げて上げて上げ続けて……飛行艇の限界高度がそろそろかという所で、俺達を追跡していた化け物連中が失速し、追跡を諦め始める。


 空気が冷えたからなのか、空気が薄くなったからなのか。

 とにかくこれは好都合だと、化け物から距離を取り……俺達を追いかけてきてくれていたクレオとアンドレアとジーノ達と共に体勢を整え、薄い空気の中でどうにか息を整え、エンジンを休ませてやっていると……凄まじい、空気が震える程の轟音が……破裂音が周囲に響き渡る。


「うるっせぇなぁぁあ!?」


 突然の音にびくりと背を震わせ、そんな声を上げて……直後、凄まじい勢いで何かが飛んできて、俺達の真下……それなりに下の高度にいた化け物連中が、その何かに吹き飛ばされ、潰されて……直後、その何かが炸裂、一帯の化け物を一瞬で消し去ってしまう。


「は……!? な、なんだ今の!?

 み、味方の攻撃か!? にしてもなんだありゃぁ!? 一瞬で連中が粉々に!?

 ……た、大砲か? 空にどうにかして大砲を持ち込んだのか!?」


『た、大砲?

 大砲っていうと……えぇっと……あ、あ、あーーーー!

 わ、忘れてた!! そうだ、そろそろ完成しているはず!!』


 俺の言葉に対し、アリスがそんな言葉を返してきて……直後に再び轟音。


 先程の何かがまた発射されたらしく……直後に炸裂音が響いてくる。


 一体全体何処から何が発射されているのかと、音が聞こえてくる方向に針路を向けて飛んでいくと……今さっき意味深なことを言っていたアリスが、


『やっぱりーーー!』


 と、大声を上げる。


 そこに……空中にあったのは、大きな軍艦だった。


 黒塗りの鋼鉄製で、数え切れない程の砲をあちこちに構え、それらを次々と、休ませることなく唸らせ、いくつもの砲弾を周囲にばらまき、化け物達を殲滅していく……デッキの上で国旗を優雅にはためかせる、空飛ぶ軍艦。


 そのデッキには、国旗のようにマントをはためかせ、全く似合わない王冠を頭の上にちょこんと乗せた……満面の笑みの一人の男、この国の国王の姿があった。


 更にその周囲には何機もの飛行艇が、軍艦を守るような形で編隊を組んでいて……化け物は編隊に邪魔をされて近づくに近づけず、そうこうしているうちに次々と砲弾に吹き飛ばされていって……そうして俺達が苦戦した、勝ち目はないと絶望していた小型の化け物共は……一匹残らず、あっさりと殲滅されてしまうのだった。

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